第24話 物理学者の勧誘
自由会の人間による直接的な接触は今回が初めてだった。いや、すでに俺らは迷子の男の子を助けた時点で目をつけられていたのだ。俺が日本でしか通じない一般常識を言ってしまったせいで…。
「えっと…、この結界解いてもらえないですか…?」
「無理な話だ」
「えぇ…、人2人分くらいの空間に閉じ込められるのは趣味じゃないのにぃ。ま、いっか。リン!来て」
カイスがリンと呼ぶと結界の中にリンが現れた。結界の中に現れたのなら安心だ。なんて言えるわけがない。リンとカイスは次の瞬間には結界の外に出ていた。
「いやぁ、やっぱ便利だなぁ。流石リンだよ!瞬間移動は一味違うね!」
「いやいや、カイスさんだってすごいじゃないっすか!一瞬でこいつらがどこにいるかわかるなんて便利すぎますよ」
リンの魔法とは違う特殊能力が瞬間移動だと分かった。つまり、リンを捕まえることは不可能になったってことだ。
「それで、僕たち2人は結界の外…。君たち3人と同じ条件になったわけだけど」
「話し合いがしたいのか?要求はなんだ」
「んー、生徒の前でカッコつける先生…!好きなキャラだなぁ。前世はもうごみみたいな教師しかいなかったから憧れるぅ。お前みたいな先生も仲間にしたいけど今日きたのは別の理由」
カイスはそういうと、俺と俺の後ろにいるメティの方に体を向けた。隣に立っているリンは少し不服そうな顔をしている。
「そこのルイスとメティスを自由会に勧誘しにきた。別に喧嘩しにきたわけじゃないよ、安心して!それに自由会はいいとこだよ?他人に自分を律されることもないし、自分で他人を心配する必要もない。本当に自由なんだよ?」
「お前らと仲間とかスッゲー嫌だけど、まぁカイスさんがそうしたいっていうから特別に仲間になってやってもいいぜ」
喧嘩をする気はない。これは多分本当だ。自由会に俺らが入る前提で話を進めれば…の話だろうけどな。
「そうか…、俺とメティを勧誘しにきたってことか」
「そうだよ」
「ふぅん…、自由会に入るメリットは?」
「お、興味を持ってくれた?」
「まぁ同級生が入ってんだ。少しは興味を持つもんだろ」
「嬉しいなぁー、話のわかるお兄さんは好きだよぉ〜」
俺は相手の気分を逆撫でしないように、話に乗る。メティは俺のことを信用しているし、オスカー先生にも俺がわざと話を聞いていると分かっているだろう。あくまで今俺ができることは時間稼ぎだ。
そう、学園長がここに着くまでの…ね。
「自由会に入るメリットかぁ。まぁ。さっきもすでに伝えたけどめちゃくちゃ自由なんだよ!弱い人のために自分の力を抑えて生活するなんて意味わかんないじゃん?それをしなくていいの」
「自由会ってすでに人数が多いんじゃないのか?結局窮屈になるみたいな…」
「安心して、みんな優しいから。だって、元日本人の集いだよ?話が盛り上がるに決まってるじゃん!」
「そうか…、ちょっとメティと相談してもいいか?」
「もちろん!いい返事を期待してるよ」
俺は後ろにいるメティに体を向け、耳元で凍えで話しかける。ちらっとオスカー先生のほうを見ると渋い顔をしながら、右手を口に当てている。これは事前に話していた、緊急事態時のハンドサイン。このハンドサインは先生の予想の範疇という意味だ。つまり、学園側はいくつもの愛悪の状況を想定し動いているのだ。
「メティ、もう少し我慢してくれ」
「う、うん…」
「どう?自由会、よさそうだと思わない?こんなに説明したんだからさすがに入ってくれるよね?」
さすがに時間を使いすぎたのか、カイスも少しイライラし始めてきた。先生の手は左ほほを左手で触っている。
「そういえば、黒ローブは着ないの?それが結構重要なんだけど…」
「あぁ、それは上の人だけ。僕たちみたいなのは着ないよ」
「ほうほう。なるほど、それならよかった」
「やっぱり、あれ結構ださいもんね。じゃあ、入ってくれるってことでいいかな?」
「あぁ、完璧だ」
よかった、結構ぎりぎり。これ以上はメティの前で自由会に入るっていう嘘を言わなきゃいけなかったが…。やっと、学園長が着いた。
「お待たせしました。では、そちらにいるカイスさんは私がお相手しましょう」
「ん?どういうこと」
窓のほうから学園長の声がした。ここは4階…、つまり学園長は宙に浮いていることになる。そして、カイスのことを自分のもとに引き寄せ、そのまま姿を消した。
これは最初から決まっていたことだ、もし自由会が接触してきた場合どういう力があるかわからないから、学園長が一対一で相手するというもの。瞬間移動はリンみたいにポンポンできるもんじゃないし、準備したからといってもできるもんじゃない。学園長はかなりの手練れだと瞬間移動を前準備は必要だとはいえ行えてる時点でよくわかる。
「おいおい、まじかよ」
「じゃあ、というわけだ。リン、申し訳ないが逃げられないからな…。捕獲結界!」
「だから、それは意味ないって。じゃ、そこの二人借りてくぜぇ」
そういうとリンは俺とメティの目の前に現れ、俺らに触れたかと思うと窓のほうを向いた。次の瞬間俺たちは王国の外、学園からかなりの距離のある場所にいた。王国を囲む外壁が遠くに見える。こんな遠くに一瞬で移動できるなんて、本当にリンの力は異常だ。
「じゃ、もうこれで邪魔はされないよな?」
「お前の力がここまでなんて想定外だよ…」
「はは、そりゃそうだろ!瞬間移動なんてすげぇかっこいいだろ?」
リンは俺らから少し距離をとり、俺らのほうを向いて語りかけてきた。
「お前らに負けたのがすげー嫌なんだよ。だからさ、もう一回ちゃんとやりあおうや…。な?メティス・ポインセチア」
こうして、リンによるメティへのリベンジが始まった。
物理学者の魔法研究 芝鳥青 @tonikakuremili
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