第23話 物理学者のたった一つのミス
学園から被害者である俺の名前を伏せて、リン・エーテルによる犯行が発表された。ちょっとは嘘ついたり、学園の責任を和らげようとするかと思ったが…、学園側は自分たちに非があり、反省を元にさらなる対策を考えていると発表した。
俺は学園の落ち度で被害にあったが、嘘偽りのない謝罪を含めた発表を見て信頼してもいいと思えた。逆を言えば、リンは学園側でも把握しきれない力があるということだが…。
「とりあえず学園はこれからかなりの警戒モードに入る。それで俺はお前らをつきっきりで守るから安心してくれ」
「わかりました」
「メティスには申し訳ない、ずっと俺と一緒にいるのは多分苦痛だろ?だから、俺は隣の部屋にずっといるから、その間も結界…決闘の時に張っていた致命傷を負わないやつ張っておくから多少は安心してくれ」
「緊急事態になったら大声あげますね」
「そうだな、お願いするよ。じゃ、今日は大変だったが存分に体を休めてくれ」
学園側の発表などの諸々が終わった時にはすでに太陽が沈んでいた。まぁ、1日で終えられることが本当は異常なんだが…。オスカー先生の目に入るとこにいるってことで、オスカー先生に常についていっていただけなのにすごく疲れた。
そんなオスカー先生は今、俺らのいる部屋の隣の部屋にいる。メティスは俺以外が長い間一緒にいるのを精神的苦痛に感じてしまう。最近はそれも和らいできたんだが…、自由会やら俺がさらわれたとかで塞がってきた傷もまた開いてしまったらしい。つまり、メティに気を遣ってくれたってことだな。
「メティ、体調はどうだ?」
「よ、よくない…」
「俺が自分の意思でメティを1人にさせないよ。だから、新しく約束する、絶対にメティを1人にはさせない」
そう言って俺は魔法陣の描かれている紙を渡した。メティの手のひらサイズの紙だ。メティは少しポカンとした顔をしている。
「これは…?」
「これは俺の魔力を探知して居場所を教えてくれる魔法の紙だ」
「ルイのことを見つけられないなんてことがなくなるんだね…?」
「あぁ、今回は置き手紙があったから良かったが、次もそうとは限らないからな…」
元々渡そうとは思っていた、しかし魔法陣を描くのが難しく苦戦していたのだ。今回は急ピッチで仕上げ、それなりに効果のあるものを渡した。
安心できるものが俺たちの信頼だけでなく、物としてもあればメティの精神ももっと安定するかと考えたのだ。
「そっか…、うん。これ大事にするね」
「ありがとうな。今日、助けに来てくれたことも…ね」
「ふふふー、今日は本当に頑張ったからね!みんなに助けてーって頑張って伝えたの!」
「やっぱりレインにキルアさんと仲良くなれてよかったな」
「よかった!本当によかったよ…」
メティの今日の偉業について話を聞いている途中で扉をノックする音が聞こえた。夜の間は生徒をここにいっさい近づけないとオスカー先生は言っていたから、きっとオスカー先生だろう。
「オスカー先生の直近の論文で一番俺が面白そうと言ったのは?」
「特殊魔法結界による対象の抑圧は可能なのか、だ」
「オスカー先生ですね、どうぞ中へ」
今のは合言葉みたいな物だ。人の声を真似る魔法、気配を消す魔法、色々とあるせいで絶対に誰にもわからない合言葉を設定したのだ。側から見ればキモいと言われそうな合言葉だ。流石に信用できるだろう。
「寝る前だったと思うがすまない」
「いえ、何かありましたか?」
「実は気配探知用の結界を張っていたんだがぁ…、どうやら1人ここに近づいてくるやつがいてな」
「つまり…」
「あぁ、寝れないってことだ。ただ、ここにお前らがいることは公表してないし、普通の生徒の可能性もあるからなぁ」
「警戒しておいて損はないよってことですね」
「そうだ」
メティはずっと俺の後ろで背中に頭を擦り付けている。行動はすごく可愛いんだが、極度の緊張と俺をもうさらわれたくないっていう意志の表れだろう。
そのまま先生と警戒や、非常時についての話をしていた。そして突然だ。突然目の前に幼い男の子が現れた。
「ねぇ、ネギがクレーマーに使われる理由って何?」
「捕獲結界!!!」
先生が咄嗟にその男の子を捕獲結界に閉じ込めた。ちょうど論文を読んでいたから理解している。この結界の中じゃ魔法を制限され、結界自体も強固で破壊して出ることが困難になっている。
というのに中にいる男の子は余裕そうな態度と表情のままだった。
「これはひどい歓迎だね。僕何もしてないのに」
「誰だお前は?学園の生徒じゃないな」
「流石先生だ。学園の生徒は全員覚えてるのかな…?お兄ちゃんたちは覚えてる?」
覚えている?いや俺はこんな男の子と会った覚えは…。さっきも変なことを言っていたし…、いや、違う!ネギがクレーマーに使われるのは九条ネギが元になっていると答えたことがある。いや、まさかだ。もし、そんな理由で俺が日本で生活したことがあるなんてバレたのなら…。
「思い出した?迷子になってた男の子だよ。ほら、九条ネギのさ」
ニマニマした表情で俺の方を見てくる。動悸が止まらない。こいつがここに来た理由はすでに見当がついている、どうせこいつは…。
「んー、なんでそんな緊張するの?あ、そっか自己紹介してないもんね!」
そいつはマイペースに自己紹介を始めた。
「僕は自由会の1人、カイスだよ。よろしくね!」
俺とレインそして学園が想定していた最悪のシナリオ。自由会による俺とメティへの接触が実現してしまった。
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