血の挙式


 

 

 教会の内部に入った。

中は綺麗なステンドグラスと、綺麗な装飾で飾られていて、外観とは打って変わってとても豪華な作りになっている。


教会正面の大きな扉からすぐ正面の祭壇には、黒色の鎧が祀られていて、並々ならぬ力がそこから流れ出ている。

ボロボロで傷跡だらけのそれは、明らかに人が使っていた痕跡自体はあるものの、人に扱える物ではないと断言できる矛盾さを持ちながら、神聖さ、威圧感、そして……。

 

「この世界の物じゃないだろ……あれ」


「私も……それは同意見です」

 

この世界とは隔絶された、どこかからやってきた物のような存在感をはなっていた。

 

長椅子に身を隠し、ミファと共に祭壇の右隣にある通路を目指す。

この隠れている椅子は木製だが、この木の質感さえも、違和感がある。

ここに居てはいけない。

全身が、本能がそう訴えかけてくる。

ミファが居なければ、俺はとっくに逃げていただろう。

 

「ナーパム、上を見てください」

 

「上って……」

 

上を見れば高い天井と、一枚の絵が見える。

黒色の鎧のような物に全身が包まれ、赤色の光を目から放つ一人が、七人と戦っている絵だ。

赤色の瞳だけでは性別までは分からない、だが、直感だがあれは男性だ。

そしてあそこに画かれているのは、あの祭壇にある鎧と同じ物。

 

……つまり、あの絵の中の人は皆、化物なんだろうか。

 

第六大陸の伝統的な衣装であるキモノとやらを着た青年。

ピンクのドレスを着た少女。

杖を振るう老人。

全身を宝石のついた鎧で固めた戦士らしき女性。

ぬいぐるみを抱きつつ魔術を使う幼女。

短刀と小さな杖を持ち、片目を失っている男。


そして、ラエルさんにそっくりな黒装束に赤色のマフラーの男もそこに描かれている。

 

「……ラエルさんなのか」

 

「ラエルって、ナーパムがアメアの魔術を教えてもらった人ですよね?」


「何で知って……あ、そうか」

 

彼女の魔力を取り込んでいるせいで、魔力を通じて俺の思考や記憶はミファに筒抜けだ。

だから一切の隠し事は出来ない。

普通ならこれを気持ち悪く思うのかもしれないし、俺も他人ならそう思う。

でも、俺はミファがいつも見てくれているんだと、安心できるんだ。

 

「いつも見ていますからね、ナーパム」

 

「ありがとな」

 

「いえ、好きでやっていますから! ……さて、貴方が会ったあの人は多分ですけど黄金のラエルだと思います」

 

黄金?

……あっ!

あの絵のタイトルだ、黄金の闊歩。

ラエルさんらしき姿にはどこにも黄金なんてなかったから意味わからんとおもってたアレ!

 

「師匠が探していた人ですが……おとぎ話ではなく実在していたとは思いませんでした」

 

ラエルさんっていったいどんな人だったんだ?


「なぁミファ、それもう少しくわしく」

 

ミファに近づいた瞬間、足元で音がした。

何故こんな所にガラス片が?

何故こんな所に音の出る物が?

そんな事を考えつつ、周囲を見る。

……人は出てきてない。

あぶなかった……。

 

「ナーパム、気を付けて下さい」

 

「……すまねぇ」

 

頬を膨らませたミファに頭をペチペチされる。

……可愛いな。

 

「私も黄金のラエルについてあまり知りませんが、師匠が言うには第七大陸の代表者らしいです」

 

第七大陸だと?

まだ未発見の大陸だろ?

大陸間を繋ぐ洞窟の果てにあるとかの伝説は聞いた事あるが、先生はそこに大陸は無かったと言っていた。

そこから来ていたとしたら……凄い話だぞ。

 

「第七大陸は黄金の大陸、ラエルは師匠の宿敵だと聞いていますが、それ以上は教えてもらっていません」

 

ミファの師匠って、赤い髪の魔術師だったっけ。

……まったくわからねぇな。

 

「……さてと、ここまでにしましょうか、もうこれ以上ここにいるのは危険……ナーパムッ!」

 

ミファに突き飛ばされた。

そして彼女は防御魔術を起動させ、飛んできた槍を弾く。

 

「反応が早いですね、魔術師ミファ・オンブラさん」

 

槍の飛んできた方向には、ミウクと槍を投げたであろう女性が立っている。

聖女ミウクに見つかった。

どうする、どうやって逃げる?


『アメアの魔術には魔術のそうあるべきと定められた運命を変える力がある』

 

……前の俺とは違う。

ラエルさんかは貰ったこの力がある!

 

「アメア・フレイム!」

 

「ナーパム! ダメです!」

 

ミファを守る為に、俺はアメアの魔術を使った。

これなら、いくらミウクでも防ぎきる事は……。

 

「アメアですか……へぇ、ではこちらも、アメア・シールド」

 

黒く半透明な壁が炎を包む。

そして、行き場を失った炎が俺目掛けておそってくる!

 

「下がって下さい! プロテクション!」

 

炎をミファが受け止める。

防御魔術の中でも最上位に位置するプロテクションの魔術は空間に幾何学模様を描きつつ、数枚の壁となりミファと俺を守る。

だが、壁がみるみる溶けていく。

プロテクションでも、防げない。


「ナーパムは絶対に守る! プロテクション! プロテクション! プロテクション!」

 

壁を何回も作り直し、五回目のプロテクションでようやく炎を防ぎ切った。

ミファの魔力量は多い。

他の人とくらべても桁はずれに多い。

だがそれ以上に、プロテクション一回の消費魔力は凄まじい。

五回も使えば……ミファは……。

 

「大丈夫ですよナーパム、私は必ず貴方を守ります」

 

ミファの魔力に揺らぎがある。

この揺らぎは何回も見てきた、枯渇寸前の、魔力が不安定な状態の揺らぎだ。

俺のせいで、ミファはほとんどの魔力を使い切っでしまったんだ。

 

「ナーパム・エストスさんでしたね」

 

ミウクが手をこちらに向け、黒い矢を構える。

間違いない、同じ魔術を使えるからこそ分かってしまう。

あれにも、アメアの魔術が使われている。


「アメアは貴方だけの物ではありません、アメア・シャドウ」

 

このままなら死ぬ。


「私が……ナーパムを……守らないと……」

 

ミファは魔力の減少でフラフラしているし、動けそうにない。

守らなきゃ、今彼女を護れるのは俺だけだ。


「アメア・シールド!」

 

自分の中の魔力がガリッと削れる。

ミファから貰った魔力はもう空だ。

それでも……ミファは守る!

 

矢が壁で止まっている。

これなら、これなら防げる。

 

「二回も使えるんですね、では、金剛魔術・ダイヤモンドカット」

 

そうおもっていたのに、壁は粉々に切り刻まれた。

それと同時に、矢が襲い掛かってくる。

……最後の魔術、あれもアメアと同じ系列の魔術だな。

これはもう、助からない。

 

「ポジション!」


矢が刺さる寸前、ミファと俺の位置が入れ替わった。

おかげで矢は躱せたが、矢はミファをつらぬいている。

それでも彼女は俺にまで矢が飛ばないよう、矢を掴む手から煙を出しながら押さえ込んでる。

彼女の背中から、見えるはずのない黒い矢が見え、そして消えていく。

 

目の前で恋人が倒れる。

その口はもはや言葉を発さず、ただ逃げろと言っていたような気もする。 

俺の手や腹に飛び散る彼女の血が、じっとりと温かく、それでいて死が目の前だと嫌でも現実を押し付けてくる。

 

「ミファ!」

 

「動かないで下さいな、魔術師ナーパム」

 

駆け寄りたい。

早く手当てをしたい。

なのに、体がミウクの魔術でロックされて動けない。

このままじゃ死ぬ。

ミファが死ぬ。

俺の恋人が、今目の前で苦しんでいる。

 

助けるんだ、俺がたすけるんだ。

 

「アメア……」

 

心臓が痛い。

体中が傷む。

魔力の代わりを、体が無理やり用意しようと悲鳴をあげてやがる。

ダメだ、アメアの魔術を使うのに必要な魔力がたりない。

痛みだけが残り、魔術は何一つ発動しなかった。

 

「アメアの魔術を二回使えばそうなりますよ、ですが凡人にして上出来だよね、お姉ちゃん」

 

「……ミウク様、呼び方が戻ってますよ」

 

「あわわ……す、すいませんでした、ギアマトゥル」

 

どうすればいい。

どうすれば、ミファが助かるんだ。

 

「……ナーパム」

 

まだ意識がある。


「ミファ!」

 

「動くな」


ギアマトゥルと呼ばれた女性が槍をミファの首に当てる。

力を入れずとも、手を離すだけで槍が首を貫くだろう。

どんどん、ミファの服が赤く、血に染まっていく。


「魔術師ナーパム、アメアの魔術をもつ貴方に選択肢を与える」


槍を持つ女は、低く、殺意の籠もった声と鋭い目つきで俺を睨む。

  

「選択肢だと? そんな事はいい、俺はどうなってもいいからミファはたすけてくれ!」


「Vano・Dite教団の団員となるか、それとも恋人の死か、選べ」

 

このタイミングで勧誘か。

ミウクはムカつくし、この女もムカつく。

二人共殺したい。


「団員となれば、この女は助けよう」

 

「なら団員になる! お前達に従う! だからミファを助けろ!」


だけど、ミファの命には代えられない。

助かるのなら、俺は何だってする。

こんな奴等の部下にでも、生贄にでもなってやる。

 

「わかった、では誓え」

 

槍がミファの首から俺の頭に向けられる。

誓えと言われても何を誓うのか普通は分からないはずだ。

だが、今の俺には何を言うべきか、どう誓うべきなのか、全てが分かる。

 

「私、ナーパム・エストスはVano・Dite教団の魔術師となり、力の限り教団に尽くします。そして……」

 

そして……。

 

「平和な世界を構築する事に、貢献します」

 

これ程平和な世界という言葉が似合わない状況は無い。

それでも、近寄ってきたミウクによってミファの傷が閉じ、出血が止まるのを見て、誓いの歪さに対しての疑問を持つのも、考えるのも止めた。

 

「大丈夫ですか、教団の魔術師ミファ」

 

「……はい」

 

ミファはフラフラとしながらも、立ち上がった。

生きてる、それだけがたまらなく嬉しかった。

 

 治療を受け、俺とミファは教会中央の大きな道に立っている。

俺達の周囲は赤い鎧の剣士達に囲まれていて、彼ら彼女らは拍手をして笑顔を向ける。

 

その笑顔の先にいるのは、夢の中で描いていた大魔術となった俺が身につけていた空想上の衣装が現実に現れ、実際にそれを着ている俺と。

 

血で染まり、服が血のウエディングドレスのようになったミファが隣にいる。

 

彼女の綺麗だった瞳は今や薄い赤色に変わってしまったが、彼女の魅力は変わらない。

 

むしろ、増しているような気さえする。

彼女は変わらぬ笑顔を向けている。

 

祭壇近くに立っていたミウクがニコニコと笑っている。


「教団の魔術師ミファ・オンブラとその恋人、ナーパム・エストス、これより再度誓ってもらいます」

 

ミファがミウクに向って歩いていく。

彼女は自分を拉致した組織の聖女の前に立ち、俺も並んで隣に立つ。


「ナーパム・エストス、貴方はVano・Dite教団の魔術師となる事を選びました、間違い無ければ頷いて下さい」

 

俺は首を縦に振る。

 

「聖魔術師ミファ・オンブラ、貴女はVano・Dite教団の魔術師としてナーパム・エストスを管理し、支配し、いついかなる時も信仰と、ナーパム・エストスへの愛を忘れないと誓いますか?」

 

俺とは違う誓いの言葉に対し、ミファは迷いなく答える。

 

「誓います」

 

ミウクは手に持っていた真っ黒な本を閉じた。

 

「それではミファ・オンブラ、貴女がナーパム・エストスの支配者であり管理者である証拠を、皆に示して下さい」

 

ミファは一歩俺に近づいた。


「ナーパム、愛しています」

 

そして、ミファと俺の唇が重なった。

 

誓いと言う言葉、そしてこの場所。

見方を帰れば、敵地での結婚式みたいだ。

……何を考えてるんだよ俺は。

俺のせいで、ミファまで教団に入る事になっちまっただろうが。

 

「ナーパム」

 

「……何だよ」

 

落ち込む俺に対し、ミファはこれまでで一番の笑顔を見せ、笑う。

 

「ここなら、貴方をずっと、ずーっと守れますからね!」

 

変な場所に入ってしまった。

だけど、ミファと一緒なら……。

 

「ずっと、側にいてくれ」

 

「お願いされても離れませんからね! 私のナーパム!」

 

ここでも、やっていける。

 

 教会の外から音がする。

俺達の教会を破壊しようと、敵が迫ってくる。

……あれ、敵?

俺達の教会?


「行きましょうナーパム! 私達の愛と信仰を、ミウク様に認めてもらうチャンスです!」

 

……俺は……。

 

「ああ! やってやろうぜミファ!」

 

いったい……。

 

「でもナーパムは何もしなくて大丈夫ですからね、私の事を近くで見ていて下さい、それだけで勝てますから」

 

何……を。

 

「なら、お前を見ているよ、一番近くで、ずっと、ずーっとな」

 

言って……。

 

「無事を祈ります、聖魔術師ミファ、魔術師ナーパム」

 

教会を壊そうとしていた彼女には見覚えがある。

名前はえっと……いや、思い出す必要はない。

俺にはミファがいる。

 

「覚悟して下さい、降臨者!」

 

「ミファちゃ……その目、遅かったか……」

 

「ナーパム! 見ていて下さいね、改ピリラ式魔術……アメア・ナーパム!」

 

「……姫様に報告しなきゃ」

 

ミファさえいれば、それでいいんだ。


 

 

 

 

「それで、どうでしたか、降臨者パラさん」

 

「その呼び方は止めて下さいよ姫様、私なりの結論はピリラ・ルリラの弟子が狙われてる、かな」

 

「そうなると次は私かな、ピリラは一時期師匠だったし」

 

「お待ち下さい、それではラタが狙われた理由が分かりませんわ」

 

「ルサンチマンちゃん……いたんだ」

 

「降臨者なら降臨者だと言って下さい、分かりませんでしたわよ……それで、ラタの件はどう説明しますの?」

 

「ラタの事はいいでしょ? 今はこれからどうるかよ!」

 

「わたくしはラタを第六大陸に戻します、ですから頭数に数えないで下さいな」

 

「もとよりそのつもりよ……降臨者パラさん、貴女は第五大陸フィッタイトに行って頂戴」

 

「それはいいけれど、姫様はどうするの?」

 

「どうするもこうするも、教団と戦うにはまだ知識がたりなさすぎるから……まだここでタリラの報告を待ちつつやる事があるのよ」

 

「ここでやる事?」

 

「ええ、まだ調査が残っています」


「無事でいて下さいね」

 

「……行ったか、では二人共、第一大陸"レイアーヴ"からの亡命者の救出をお願いしますね」

 

 

学生編 終。

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俺の幼馴染はちょっと変わった優等生 紫糸ケイト @keito_no_room

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