天下無双なダンスって?

ぬまちゃん

KAC2025 ラスト第五回お題 三題噺「天下無双」「ダンス」「布団」

「おい! 本当かその話」


  週末に王都で開かれる舞踏会の話を酒の肴に飲み歩いていた若者たち。そんな若者たちの話をさえぎるように割り込んでくる、屈強な男が。

 彼の胸には、冒険者ギルド最強であることを意味する黒い認識票がギラリと鈍く輝く。


「は、はい。そうですけど」


 胸ぐらをいきなり掴まれて質問された若者は、しどろもどろになって返答する。


「おい、あのオッサン、天下無双で名高い冒険者ケンジじゃないか?」

「ああそうだよ。このあいだ、炎の山に巣食ってたレッドドラゴンを一人で倒したんだって噂になってた」


 野次馬たちがつぶやく。


「こんどの武闘大会で優勝すれば、伝説の御神木『トリの降臨』の枝を頂けるんだな!」


 神の使いおトリ様が天から飛来した際に、最初に止まったと言われる御神木、トリの降臨。

 その枝は幸運のシンボルであり、最強の御守りとなる。しかもその枝を細かく砕いて飲めば、万病に効くとも言われている。

 ──その枝が優勝者に与えられる!


 冒険者ケンジの幼馴染サユリ。彼女の母親は、布団から出られないほど弱っていた。医者もさじを投げるような難病に侵されて……


 たとえドラゴンを倒せるほど強くても、幼馴染の母親の病も治せない。そんな無力感を味わって飲み屋街を歩いていた。そんな時に飛び込んできた、天の声だった。


 ケンジは、その若者に詳細を聞こうと締め上げる。


「うぐぐ、オッサンは冒険者だろ? だって今度の大会は武闘大会じゃなくて、舞踏会だぜ。バトルじゃなくて、ダンス! だから参加出来ないし、優勝なんてとうてい無理だよ。ゲホゲホ」


 ケンジは若者の話を聞いて、締め上げていた手を離す。武闘大会じゃあ無い、舞踏会であることに絶望して。


 こうなったら、ダンス大会参加者全員を、参加する若い女性たち全員を襲って、大会に出場できなくするか?

 冒険者ケンジの心は、ほんの一瞬悪魔に魂を売りそうになる。


 冒険者ケンジは、そこでふと思い出す。孤児である自分を拾って育ててくれた、マダムカズコ。彼女も確か超一流のダンサーで、夜の王宮や裏の舞踏会でも、天下無双バタフライのカズコと異名を持っていたと。


 よし、最後の希望だ。

 舞踏会までに、養母に改めて教えを乞おう。


(了)

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