人をデジタルにするソファ

ちびまるフォイ

人をかえるソファ

ブロロロロ。

宅配トラックが近づく音が聞こえる。

もう待ち切れない。


「ちわーーっす。宅配便です」


「きた!!!!」


荷物を受け取ると慌ただしく開封する。

中には大きめのソファーが入っていた。


「ついに届いた!! 人をデジタルにするソファ!!」


SNSで人気が出て、品薄状態が続くソファ。

やっとこさ転売ヤーとの購入合戦に勝利し購入できた。


「さっそく座ってみよう」


ソファに腰かける。

背中の脊髄から情報が解析されて、体はみるみるデジタルに。


「お、おおお!! これはすごい!」


あっという間にデジタルの体になった。

wifiもどこに飛んでいるか目視できる。


肩や腰の痛みもデジタル化により消去。

お腹も減らなければ、眠くもならない。

あらゆるアナログ特有のストレスから解放された。


「やっぱり買ってよかったぁーー!」


疲れない体を手に入れて毎日ゲーム三昧。

何日お風呂に入ってなくても、デジタルなので匂わない。

食費も節約できて一石百鳥くらいのメリット。


人をデジタルにするソファは手放せない。

メーカーにも感謝メールを嫌がらせのように送るほどファンになった。


そんなメーカーからは新商品が発売された。


「ひ、人を概念にするソファだと!? ほしい!!」


今度は座った人を概念にするソファらしい。

自分のようなファンが増えたので入手は難しい。


デジタルの体を手に入れて、毎日毎日1分おきに購入ページを見るも売り切れ。

手に入れることができたのは発売から1ヶ月後だった。


「やっと……やっと手に入れた……長かった……」


ちょうど人をデジタルにするソファもくたくたになっていた。

新しいソファと入れ替えるにはちょうどいい時期。


「よし、それじゃ座ってみよう……!」


概念にするソファへ腰かけた。

体がみるみる消えてゆく。


「こ、これが概念!!! すごい!!!」


概念になると目視することはできなくなる。

けれど認識はできるという不思議な状態。


今まではアナログの肉体活動をデジタルにしていた、

概念となった今はそれすら必要がない。


自由に自分を書き換えることができてしまう。

これこそ概念となったメリット。


「そうだ。自分はめっちゃイケメンということにしよう!」


概念なので自分の認識を変えることができる。

自分の設定を書き換え、イケメンでバウンティハンターということになった。

悪しき黒竜の力を右腕にやどし、幼馴染に言い寄られながら学校に通う。

実は生き別れの妹がいるとかいないとか。


「概念ってサイコーー!! なりたい自分になれちゃう!」


苦労したが、人を概念にするソファを買ってよかった。

一生このソファから動かないと決めて、ソファ用のエンゲージリングも購入した。


それからしばらくして。

終わりはソファ側から切り出されることとなる。


「うーーん……。このソファもだいぶボロボロになってきたなぁ」


概念となった今もソファからは動けない。

毎日ソファを利用するものだから、今にも壊れそうな状態になっていた。


「しょうがない。新しいのに……って、営業停止!?」


久しぶりに購入サイトへアクセスするも、

なんと会社はいつの間にか営業停止となっていた。

テレビとかニュースとか見ないのでわからなかった。


ということは、ソファはもう手に入らないことを意味する。


「困ったなぁ……。このままソファを使い込んでも、

 このソファが壊れたら概念から肉体に戻っちゃう……」


幸いだったのは営業停止になってからまだ日が経っていないこと。

ソファ工場が跡形もなく消えていたら手立てはなかった。


なんとしてもソファを手に入れるべく、ある作戦を決行した。


「さささっ。よし、さすがに誰もいないな……!」


深夜のソファ工場。

営業停止もあってまるで稼働していない。

管理人もいない。


監視カメラをかいくぐり、工場の中へと入る。


「くそ……。やっぱりソファは無いか……」


工場の製造ラインに作りたてのソファが放置されていないか。

そんな淡い期待をもって潜入したが、そう上手くはいかない。


「いや待てよ。製造ラインになくても、倉庫にはまだ売れ残りがあるかも」


今度は工場の奥にある倉庫へと向かう。

鍵を破壊し、扉をこじ開け倉庫へと入る。


中はやっぱり空っぽだった。


「ああもう! こっちもダメか! そりゃ破棄されるよな……」


諦めかけたそのとき。

ふと明かりの届かない場所に目がとまる。


そこにはホコリかぶったソファが1つだけ残されていた。


「あ! ある!! まだ1個だけ残っている!!」


すぐにソファに飛びつく。

型番を確認し、それが最後の新商品だとわかった。


「なんて幸運なんだ!! 最後のひとつがあるなんて!

 さて、これは人を何にするソファなんだ?」


ソファのタグを確認するが、かすれててわからない。

倉庫へ雑に押し込まれた影響だろう。


【ひとをか*にするソファ】


ここまで読めた。

読めた瞬間に鳥肌たつほどの感動を覚える。


「まさか、人を【かみ】にするソファ!?」


営業停止も納得いく。

もしも座った人が神になったらやりたい放題。

他の宗教の人から猛烈な批判されるだろう。


だがその魅力は折り紙付き。


これまではせいぜいが人を概念にするだけに留まる。

自分のことを好きな設定にすることはできても、

自分以外の世界まで作り変える力はない。


神は違う。

神は世界そのものを変えることができる。

自分に都合のいい世界にすることだってできる。


「なんて最高なソファなんだ!!」


神になってやりたいことを思い描く。

もうソファに座るしか無い。


ソファに腰かけた。

予想通り、体はみるみる消えていく。


「ああ、これが神になるってことなのかーー!!」


そして、完全に体は消えた。

もう誰からも認識されることはなくなった。



数時間後、倉庫に業者がやってくる。


「先輩、ソファまだ残ってました」


「こんなところに……。よし廃棄するぞ」


「先輩。なんか使われた形跡ありますよ?」

「ほんとだ」


業者のふたりはあきれていた。



「人を【過去かこ】にするソファなんて、なんで座りたがるんだろうな」



過去となった男の存在は、今やこの文章に残されるのみである。

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