女子会を舞うトリ
ちかえ
女子会のトリさん
友達みんなで持ち寄ったご馳走をキャーキャー言いながら食べ、ついでにアルコールもたっぷり入れ、他愛ない話をして笑いあう。とても楽しい時間だ。
「ねえ、隠し芸しない?」
一人がそんな事を言い出した。それには誰も反対しない。むしろ、面白そうだという空気が流れる。
と言うより、この女子会では隠し芸はよくある事だった。だからみんな想定して事前にいろいろ用意していたのだった。
それはものまねやら手品やら歌やらの簡単なものばかりだったが、お酒が入っているし、気心の知れた友人達ばかりなのでそれでも楽しくてたまらないのだ。
「はい、最後は
缶チューハイ片手に隠し芸を楽しんでた笑舞は『え? 私?』と驚いて返事する。
「そうだよ、見るだけのつもり? それはダメだよ」
「……そーだね」
当たり前だ、と笑舞は苦笑いする。
ただ、困ってしまう。隠し芸がある事は予測していたけど、今回の会場が笑舞の家なので、家になんかあるだろう、とろくに用意してなかったのだ。
何も思いつかない。何かみんなが楽しめそうなのはあるだろうか。
トライアングルを叩きながら歌うのはこの間やったので、今回は無理だ。
歌でダメなら踊りとか、か? と考えてふと一つの案が思いついた。
とりあえず寝室に向かう。
「おーい! こら逃げるのかぁ!」
「待て〜!」
友達がふざけて追いかけてくるが、とりあえず笑いながら無視して目的のものを引っ掴む。
どうやらノリで友達みんなが寝室に来てしまったようだ。だったら寝室で芸をするのもアリかもしれない。リビングだとさっきまでの夕食に使った食器があるので割れる心配がある。
「あんた布団持って何してんの。しかもこんな季節に夏布団。隠し芸決まらないからふて寝? 冬なんだからもっと分厚い方がいいんじゃない?」
「違うよ!」
友達のちゃちゃに笑ってしまう。
スマホで目当ての動画サイトを開く。そこから一つの動画を選び出した。
そして音楽に合わせて踊りだす。
踊りながら両手で持った薄い掛け布団を振る。腰も振るが、動画みたいにうまく振れない。まあ、初心者だから仕方がない。
これはベリーダンスだ。たまたま数日前に布を使って踊るベリーダンスの動画を見たので、ふざけて練習してみたのだ。まさかこんなにすぐに披露するとは思わなかったが。
ただ、初めてなので緊張はする。なんちゃってベリーダンスでも、仲間内の隠し芸でも、ある程度はうまく踊りたいのだ。なので、布団を大きく振る。
後から考えれば、夏布団より、もっと軽いただのシーツを使えばいいと思ったのだけれど、その時はそれがいいと思ったのだ。
友達が踊っている笑舞を見ながら小さな声で『あれ?』と言ってから笑っている。おまけに何かを指摘しようとしている友人も見える。何かおかしいことがあっただろうか。
「トリの降臨」
友達の一人が変な事を言った。何を言ってるんだ、と思ったが、他の友達も上手いことを言う、というように笑っている。
「誰がトリの降臨だ!」
踊りながらツッコむ。
そんなに鳥みたいな踊りをしたつもりはない。コケコッコーとかも言っていない。言ってやろうか、と思ったがやめておく。
隠し芸の順番が
「でも綺麗だよね」
「まあ、確かに」
なんか褒められた。悪い気はしない。鳥みたいだというのが気になるが。
とりあえずこけかけたり怪しい所もあったが、なんとか踊りきった。
そして、ふうっと達成感のこもった息を吐いてから足元を見てギョッとした。
足元、いや、友達のところにも羽毛が落ちている。
慌てて布団を見ると、しっかりと穴が開いていた。そこから羽毛が溢れたのだろう。
「ああ! 私の夏布団がぁ!」
「綺麗だったよ。めっちゃ羽毛が舞っててさ」
それでトリの降臨か、と苦笑する。
「教えてくれればいいのに」
「指差して教えようとしたけど、気づかなかったじゃん」
逆にあんだけ舞ってるんだから気付け、と言われる。笑舞は軽く肩をすくめた。
「面白かったね。今度、会社の社員旅行あるって言ってたから余興でやれば? きっと宴会芸の天下無双出来るよ! ホテルか旅館なら布団あるでしょ」
「ついでに『トリの降臨』やれば完璧!」
落ちた羽毛を片付けるのを手伝ってくれながら友人達は言いたい放題言ってくる。もちろん本気で言っていない事は笑舞にも分かっている。
「そんな形で天下無双なんかしたくないし! ってかホテルの掛け布団に穴開けちゃダメじゃん! 弁償ものじゃん!」
笑舞のマジレスにみんなからまた大笑いが巻き起こったのだった。
女子会を舞うトリ ちかえ @ChikaeK
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