シャイニング/OFF

gaction9969

◆〇

 恥の多い人生というよりは虚無にしがみつかれた生を感じない日々をただ供されるがままに咀嚼嚥下してきた何十年だったと最近はよく思うのだけれど、その日何故かこじゃれたバーにて独り度の強めの酒を煽るという自意識以外には何ももたらさないだろう行動をしようと思い立ったのは、辞めさせられる前になし崩し的に勤務先を辞めて二週間弱、冷えた自室の蒸れた布団の中でふと、本当に脈絡も無く機能の大半を止めていた脳髄にただただ差し込まれてきただけなのであって、とは言え下調べするのもまた面倒くさく、割れたスマホの画面にかろうじて映し出された検索いちばん上、歌舞伎町一丁目にある「Lounge」という文字を拾って即決しては夏用のよれたクール素材のスーツを引っ掛けよろぼい出た陰鬱な路地にて、細長い建売がやけに規則正しく居並ぶ住宅地の十時過ぎの空気は拒絶するかのように半端な湿り気を帯びており、やはり世界は自分とは関係なく回っているとか自嘲的な考えが適当に刃を当てた剃刀負けの左頬を伝うようにして這い上がっては、それでも天下無双の無職サマへとジョブチェンジというかジョブロストした身は「自由」の意味を履き違えたような根拠ない自信を頼りない身体に巡らせては最寄り駅へと闊歩させていくわけであったけれど、微妙な混み具合の山手線を降り東口を出る前から人の流れは整然とした濁流のように僕を光る闇の奥へと押し込むようにしていざなっていったわけで、そんなこんなで辿り着いたとこは想像とは真逆の、ポールが突き立つダンスフロアだったのだけれど、ショーを楽しみつつ暗く狭いシートでグラスを傾ける御一人様もちらほらいたので割と馴染めたことにほっとするのと同時に明滅と爆音の中で逆に静寂を感じていた自分の網膜に差し込んできたのは慣れた感じでステップとビートを刻む長い髪の女性だったわけで、その日を境に曜日と時間を探りつつ通い詰めたここで、何度か言葉と酒を交わすようになれたものの、不安定な我が身を振り返ると踏み込むことを躊躇していたけど、今ここで意を決して目の前のキミに長々と言い募っていたのはつまり、この後二人で飲み直しませんか、ってことなわけで。

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