光を贈る 〜夢を信じた原石たち〜
Algo Lighter アルゴライター
光を贈る 〜夢を信じた原石たち〜
第1章:見つけた原石
「次の子、入ってください。」
地方オーディション会場の控室で、私は書類を片手に待っていた。
アイドル候補生たちが次々に入ってきて、自己紹介を繰り返す。
その中で、地味で控えめな子が一人、緊張しながら立っていた。
「佐藤美咲、16歳です。よろしくお願いします!」
声が震えている。
華やかさはないし、ビジュアルも正直並レベル。
だけど、何かが引っかかった。
ダンス審査が始まると、ぎこちないステップと不安定なリズム。
歌も声が震えていて、決して上手いとは言えない。
だけど——。
最後に一礼をして帰ろうとした瞬間、彼女が見せた笑顔。
その笑顔に、なぜか心が動かされた。
「この子、伸びるかもしれない——。」
直感的にそう感じた。
「合格です。」
「えっ?」と驚いたスタッフの視線が痛かったが、迷いはなかった。
この子には、芯の強さがある。
きっと、何かを掴む力があるはずだ。
第2章:期待と現実
グループ「Lumière(ルミエール)」のメンバーとしてデビューが決まった。
センターはエースのあゆみ、サブには実力派の沙織。
美咲は後列の三列目だが、これから力をつけていけばいい。
初ステージの日、私は舞台袖で見守っていた。
センターに立つあゆみは堂々としている。
対照的に、美咲は端で必死に踊っていた。
その姿が妙に痛々しく感じられた。
パフォーマンスが終わった後、SNSには辛辣なコメントが溢れていた。
「後ろの子、全然ダメ」「下手すぎて笑える」
正直、覚悟はしていた。
デビューしてすぐに評価されるなんて甘くない。
だけど、美咲がこの声をどう受け止めているのか、それだけが気がかりだった。
第3章:見えない努力
ある日、夜遅くにレッスンスタジオを通りかかると、まだ音が聞こえた。
ドアをそっと開けると、美咲が一人で踊っている。
Tシャツが汗でびっしょり。息も荒く、足取りもふらついている。
「こんな時間まで、何やってるんだ。」
驚いて声をかけると、はっとして振り向いた。
「あ、すみません! もう少しだけ練習したくて……」
無理に笑おうとしているが、その顔には疲れが滲んでいた。
「頑張っているのは分かるが、体を壊すぞ。」
そう声をかけると、美咲は小さくうなずいた。
「でも、私が上手くならないと、みんなに迷惑かけちゃうから……」
その言葉が胸に刺さった。
「お前の努力はちゃんと届いているよ。」
そう言ってやりたかったが、それがかえって重荷になる気がして、言えなかった。
プロデューサーとして支えてやりたいのに、どうすればいいのか分からない。
その無力さが、もどかしくてたまらなかった。
第4章:新たな道へ
数ヶ月後、彼女は卒業を決意した。
「アイドルとしては一流になれなかったかもしれない。でも、私が伝えたかったことを文章なら届けられるかもしれない。」
その言葉を聞いたとき、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。
必死に頑張っていた彼女が、夢を手放す決意をするまでの苦悩を想像すると、何も言えなかった。
エピローグ:受け継がれる想い
数ヶ月後、本屋で彼女の名前を見つけた。
手に取ってページをめくると、そこには夢を追い続けた美咲の姿が描かれていた。
「どれだけ頑張っても届かないことがある。それでも、私は諦めたくなかった。」
涙があふれた。
——美咲、お前は確かに輝いていたよ。
その言葉を胸の中で繰り返しながら、本をぎゅっと抱きしめた。
そして、心に決めた。
「次の子たちには、もっと強く背中を押してやろう。」
美咲が教えてくれた。
夢を追うことの苦しさと、その先にある新たな道を。
光を贈る 〜夢を信じた原石たち〜 Algo Lighter アルゴライター @Algo_Lighter
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