天下無双の布団ダンス
楠秋生
第1話
うららかな春の休日。陽だまりでのお昼寝は最高に心地いい。三人の子どもたちの間に寝転がって寝かしつけながら、そのまま一緒に寝入ってしまうのはよくあることだ。
胸元で寝ていた末っ子がもぞもぞ動きだす。もう少し寝たい私は、目をつむったまま二歳児の小さな身体を抱き寄せた。
そこへどたばたと走り寄る二人の足音がして、笑い声とともに、ぱしぱし肩や腰を叩かれる。
「ちょっと! お兄ちゃんたち! たっくんが起きちゃうでしょ」
小声でたしなめても攻撃はやまない。
「たっくん、もう起きてるよ~」
言われて気づくと、確かについさっきまで腕の中にいた拓斗はいつの間にか座って遊んでいる。筒にした新聞紙で叩いていた二人は、私が起き上がると隣の部屋に逃げて行った。
襖を勢いよく閉めた直後、大きな音がする。
うわ。何かやらかしたな。
「ケンカしよう!」
のっそり立ち上がった私の耳に、次男の海斗のテンションの高い大声が入ってくる。
え、何。宣言して喧嘩するの? やめて。物が壊れる。
隣室に飛びこむと、肌掛け布団をマントのように羽織って、筒にした新聞紙をかまえて二人がにらみ合ってる。昨日園から持って帰ってきたのは、剣だったのか。それにしてもついさっき、二人して楽しそうに私を叩いていたのに、何が原因で喧嘩に発展したんだか……。
足元には積み木やおもちゃが散らかっている。さっきの音は、積み木が崩れた音だったのか。多分積み木の上にもいろいろ乗せてたんだろう。これが原因だったのかな? お兄ちゃんの作品を壊しちゃったとか? でもまぁ家の物を壊されたわけじゃなくってちょっと安心。とはいえ危険危険。喧嘩がヒートアップすると、これも投げたりしちゃうから。
「ケンカしよう!」
間に入って止めようとした時、もう一度海斗が声を張り上げた。
あれ? 喧嘩してる雰囲気じゃない? 本気で喧嘩してる時は、こんなに悠長に構えていない。よく見ると、にらみ合っている顔も怒ってるわけではなさそうだ。
「おいらがてんかむそーだー!」
長男陸斗の言葉で合点がいった。
天下無双、ね。アニメか何かでやってたのかな。この頃は難しい言葉もよく使う。意味までわかってるかどうかはわからないけど。
戦いごっこなら、夢中になって喧嘩が始まらないかだけ気にしてたら、まぁ止めなくてもいいか。
怪我しないように、散らかった積み木やおもちゃを片づけて戦える場所をあけてあげる。
車のおもちゃで遊ぶ拓斗の相手をしながら、戦う二人をちらちら気にしていると、陸斗はずいぶん様になっている。園でも流行ってるのかな。海斗の方はなんともへっぴり腰で、それはそれで可愛い。
えいっ! やーっ! と戦っているうちに、海斗が尻もちをついた。直前の様子を見てなかったから分からないけど、涙目で陸斗を見上げている。
あ、これは怒り出すな。喧嘩に発展する前兆だ。
急いでスマホで、海斗の大好きなアップテンポの曲を流す。この曲を聞くと海斗はいつも機嫌を直して踊りだす。
今日もこれでおさまるかと思ったら、海斗はすくっと立ち上がって陸斗に向かっていった。
あ、まずい!
慌ててとめに入ろうとすると、陸斗が海斗の剣をかわしながらリズムに乗りだした。それを見た海斗もつられたのか、剣を振りながら踊りだした。ほ~っとため息をつく。喧嘩にならなくてよかった。
……剣舞? へっぴり腰の戦いに踊りが加わった、不思議な動きが面白い。どこが天下無双なんだか。思わず笑いがこみ上げる。ずっと見ていると、まるで布団がダンスしているみたいに見えてくる。布団をマントにしておどる、布団ダンスだ。
スマホで動画を撮って、タイトルをつけた。
『天下無双の布団ダンス』
ひとしきり踊った二人は、撮られていることに気づいていたようで寄ってきてせがんだ。
「見せて見せて」
「これ、なんて書いてるの?」
「ん? 『てんかむそうのふとんだんす』だよ」
「ふとんだんす?」
「うん。布団が踊ってるみたいでしょ」
みんなで見た後、陸斗がマントにしていた布団をはずして頭からかぶった。
「もう一回撮って!」
後ろを向いて、こちらには足の生えた布団と剣だけが見えるようにして踊りだす。
「あはは。本当に布団が踊ってるみたい」
「かいも~」
「うん、海斗も同じにしてあげる」
布団おばけになった二人のダンスを録画して、『天下無双の布団ダンス2』とした。
「パパが帰ってきたら見せたあげようね。絶対大笑いするよ~」
この後、しばらくはこの動画をテレビ画面に映して、その前で「ケンカしよう!」「天下無双!」と叫びながら、布団ダンスをするのが我が家のブームになった。
そのうち、拓斗も加わるんだろうなぁ。
子どもたちの写真や動画が増えるのは嬉しい。私の宝物だ。
私は二人が踊るのを幸せな気分でながめた。
布団はぼろぼろになったけど……。
天下無双の布団ダンス 楠秋生 @yunikon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます