『アーコ』と厨二病(湖太郎編)【KAC20255】

たっきゅん

『アーコ』と厨二病

 俺、花菱はなびし湖太郎こたろうは数多の命が眠る世界への扉を開く。永久凍土をも内包するそこでは、動植物の躯が腐ることなく血肉となるときをいまか今かと待ちわびているようだ。


「っふ、今宵はお前たちの番だ。たっぷり可愛がってやるぜ?」


 右手で掴んだ二つの命は悲鳴もあげない。当然だ。天下無双と恐れられた俺に調理されるなど、これほど光栄なことはない。


「だが、今はまだその時ではないな。もうしばらく震えて眠れ――」

 

 再び命の玉を世界に丸く空いたホールへと戻す。そして、代わりに世界から悲哀球たまねぎを取り出した。


「まずはコイツでビートを刻むか」


 綺麗な処刑台の上に置く。猫の手が悲哀球を固定する。


「――レッツ、ダンス。ミュージックスタートッ♪」

 

 爆音でかけたレゲエのリズムでギロチンは何度でも振り下ろされる。踊り狂うそれは悲しき輪舞曲、前が見えないほどあふれ出す涙はこいつの悲しみか。


「命に感謝を……」


 細切れになった朝の使者である雄々しき鶏冠の肉片もさらに細かく切り刻む。その二つを地獄の火鍋で炒める。悲鳴もあげられないやつらの味を整え――。


『厨二病は終わりです。そんなに自己主張をしたいのですか?』


 動きを止める。妖精型AI、ライデザが姿を現して声をかけてきたからだ。


「俺を更生させるのを諦めた妖精が今更なんのようだ」

『あなたの妖精の彼女ならまだお布団でふて寝していますよ。私はただ、その料理の腕前とセンスがもったいないと思っただけです』


 よく見ると、白と黒のゴスロリファッションをした妖精だった。俺のライデザである妖精とは確かに違うようだ。


「俺の作っていたオムライスを認めてくれるのか?」

『もちろんです。言動がいたくて働けない? それほどまでに自己主張したいのでしょ? なら堂々と料理で黙らせてパフォーマンスにしたらいいのです』


 痛いヤツ。その言葉は俺の封印していたトラウマだ。けれど、それすらも黙らせる料理の腕だとコイツは認めてくれるのか?


『自己紹介がまだでしたね。私は〈憧れ〉から生まれた妖精型AI、名を『アーコ』と言います』

「……憧れか。そんなもの、とっくの昔に虚無だと知ったさ」

 

 家で一人引き籠っていた。本来なら【人生設計】を提案してくるライデザからも匙を投げられ、趣味の料理に没頭した。幸い、食材を買う程度の貯金もあり、この国は働く意欲さえあれば生きるのに必要な支援をしてくれたことから、ある意味で集中して腕を磨ける環境だったとも言えた。

 

 料理人になりたかった。独創的な創作料理を生みだしたかった。けれど、俺にはそんな才能はなかった。


「こんな凡夫な俺だ。夢は捨てたが……そう言ってもらえただけで救われたぜ。ありがとよ」

『あなたの厨二病的に行う料理は独創的ではないのですか? 見かけや味だけが独創的の基準ですか? 目の前で握ってもらう高級な寿司は、――それだけで価値があるとは思わないのですか? あなたは、料理人になりたかった夢をまだ捨てきれていないのですよね?』


 巨大な重火器で殴られたような衝撃だった。確かにそうだ――。この俺を【痛い】というヤツがいてそれがどうした。板前寿司も痛車もみんなすげーっていってるじゃないか。


『私の味覚センサーは大変に美味。その調理とのギャップは人を引き付けると診断で出ています。あとは……あなたがそれを人前で出来るか。いうなれば見世物になってもいい覚悟があるか。それだけです』


 なるほど。こんな俺でも料理人としてやっていける可能性があるのか……。


「そこまで言われちゃやるしかねーな! 血肉を吸いな! チキンライス!」


 調理の途中だったのを思い出し、再開する。


「ぶちゃまけろぉおおおおおおおおおお!!!」


 最後にケチャップをかけた時には『アーコ』という妖精型AIは消えていた。


『やる気を……だしてくれたんですか?』


 代わりに布団にくるまった俺の妖精型AIが目を覚ました。こいつが起きたということは俺はまだやれるようだ。

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『アーコ』と厨二病(湖太郎編)【KAC20255】 たっきゅん @takkyun

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