【KAC20255】Black Gothic

めいき~

全盛


 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


「エルフの娘がよくもまぁここまでよくやるものだ」

「それを貴女は気に入らないと?」

「まさか、逆だよ。感心してるくらいだ」


 宝石になれる人間など希少、兵器になれる人間など稀だ。信念を貫かんとするモノを私が嫌うはずがない。


 二人はお互いに視線を交錯させた。とは言っても片方は視線等無くても見えているが。「貴女は今どちらだ?」桃色髪の幼女が無表情で言った。


「エタナ、でなければお前は死んでいる」「だろうな」


「私は自分の気にしているモノを殺すのは趣味ではないのだが」「何故、貴女は誰も救わない?」「知れた事、私が俗物だからだ」「魔族の神にして、闇の頂点であり、聖神を束ねる。そして、自らを俗物だと名乗る。私には貴女が何者か判らない。だから、こうして確かめに来た」



 幼女はゆっくりと、ひなまつりのひな壇の様な十三段の階段をゆっくりと歩いて降りてきた。「自らの眼と力で確かめようとする。実に素晴らしいじゃないか」


 真実を確かめもせず、偉そうな口を叩く輩より余程お前の方が好ましい。「お前は確か、拳を得意としていたのだったな」


 そういって、幼女は両手を空手の夫婦手の様に構えた。

 ハクアは全身の血液よりも早く、魔力を巡らせる。位階神の七位を倒す程の身体強化がハクアを化け物に変えていく。相手は位階三位の三幻神。確かめるだけでも、全力がいる。


 エルフの妖精の様な美貌を歪ませ、普段胸に蓄えている魔力を全て強化に回す。全ステータスは八百倍、これ以上は、身体がもたず吹き飛んでしまう。


「存分に確かめていくがいい、違う勝負がしたいのならそれも受けよう」そう言って、彼女に強くなる度挑み。そして、ボロ雑巾の様に大地に倒れ続けた。


 彼女は花が咲いた様に笑う。いつからか、彼女にあこがれさえ抱いていた。


「いつ何時、誰のどんな挑戦でも受ける。私は如何なる敵と数、勝負を前にしても天下無双でなければならんのだから」


 貴女に尋ねた事がある「それ程の力で貴女は一体何を望むの?」「知れた事、これ程の力を持たねば私の望み一つ叶えられんかったというだけだ」


 私が求めたのは「平穏」、ただ寝て起きて一日が過ぎていく。大切な人と共に焼きトリの降臨などと遊んでもらって過ごす時間。この世はかくも煩すぎる、吼えるばかりのゴミが多すぎる。努力もせず、負けん気だなどとぬかして向かって来るも相手が強いとなれば尻尾撒いて逃げたり媚びへつらう。その様な仲間面したゴミなどいらぬ。


 優しくして欲しい時に側にいて、愛して欲しい時に助け合う事が出来るものこそ本物。本物以外の雑音など私にはいらぬ、それらを関わらせない為の力だ。他者と関わらず生きていくならそれを可能な程全てを独りで出来ねばならぬ。


 貴女は歩いたと言うのか、人では不可能なその道を。


「あきれた神だが、あこがれるよ。本当にそれをやり遂げてそんな恐ろしい存在になっている貴女には」


「もはや、私にできぬものはない」


 その両手の指抜きの皮グローブから拳を握るだけで、ギリギリとした音が響く。


 交錯するその打撃音がまるでダンスの様に、それを幾度も繰り返し、あくまで幼女はリードする様にハクアの攻撃を全て先周りする。先回りして、手でタップしながら隙やここを狙えと教えていく。


「重ねて言おう、ハクア・ニューブリッツ・ユグドラシル。ラスボスを倒せなければゲームは終わらないぞ。何故、ゲームのラスボスは見逃す? 何故、何度もプレイヤーには挑戦権が与えられる?」


 ラスボスは強く無ければならぬ、ラスボスは一人で仲間を引き連れた勇者を待てなければならぬ。そして、勇者が勝てなければ永遠にハッピーエンド等存在せんのだ。


「立ち向かえ。そこで帰るものなど塵芥、私の視界には必要のない塵屑だ。ラスボスを倒せるプレイヤーを待っているのだから、倒そうとしない勇者に価値が無いのは当たり前」


 己をハッピーエンドに導けるモノ等、己を置いて他にない。もし、手を差し伸べるものが居るならそれが本物の仲間というものだ。性別や年齢を越えて、本物の想いだけが人を強くする。


 ラスボスは、倒される為にいるだからな。レベルを上げ、死力を尽くし、戦略をねり、それでも運ゲーを強いられる程でなくばならん。


「確率ごとねじ伏せられないなら、それは己が未熟だと知れ」

「皆が貴女の様に出来る訳ではない!」


「それはそうだ、私は強制などしていない。もっとも、しようと思えば出来ない訳ではないが」

 

 重なる打撃音だけが周囲に遅れて響き、数多の存在を揺らす。


「人の命は短いのだ、エルフの命も神と比べれば一滴でしかない」


 何故、必死にならないか理解に苦しむ。私よりも余程必死にならなければならないのに、無駄な時間を潰している余裕等あるはずがないのに。


 「生き方など、誰かに強制されるものではない。それを強制するような奴は私以上の邪悪だとも」


<そんな過去の夢を、こうして見る>


 ハクアが飛び起きると、そこには人間の娘クラウディアすぅすぅと寝息を立てていた。


 今でも、うなされる様に思い出す。「ラスボスを倒さない限りハッピーエンドは無い……か。では、ラスボスのハッピーエンド等永遠にないのではないか」


 手を伸ばして、クラウディアに布団をかけてやる。

 

 (だが、貴女の気持ちはよく判る)


 人間の娘を優しい眼で、見つめながらハクアが拳を握りしめた。

 俺とて、この子を愛している。私と名乗っていた若い頃の夢。


 いつか、この子も若い頃の俺と同じ様に。あの、エタナに挑む日が来るのだろうか。


 そっと、娘を起こさぬ様に布団を抜け出し。椅子に座ると、ぼんやりと外を見た。



<おしまい>

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