剣と拳、闘いの果て・・

ロキ-M

剣と拳

「くっ・・また当たらぬか!」

「はぁはぁ・・避けるのが手一杯。普通ならこれだけ当たらないなら焦りから攻撃に隙が出来るのに、あんたは全く隙が出ない。やりにくいってたらありゃしない・・」

「我が剣を相手にこれだけの時間を相対し、何度も鎧に打ち込んできたのはお前が初めてよ。手甲と体術を駆使して我が剣を受け流すとはいえ、己が拳だけでの戦闘スタイル。好敵手として尊敬に値するが・・貴様の命もここまでだ!」

「それは・・こっちの・・台詞。」

「強がりを・・」

「それは・・お互い・・様でしょ?」

「・・お前の拳は認めよう。だが我が鎧を打ち破れぬ。」

「伊達に・・何度も・・同じ場所を攻撃・・してないわよ・・」

「そうか。では!お前の拳に敬意を表し、我が奥義をもって葬ってやる。冥土の土産にするがいい」

「・・御託はいらないから・・さっさときなさいよ。」

「・・参る!お・・・グハッ・・な・・俺が吐血するとは一体何が・・」

「はぁはぁはぁ・・私の勝ち、だね・・ひたすら身をかわしつつ、何度も同じ場所、心臓を狙い続けたのは・・鎧の破壊の為じゃない。何度も鎧の上から心臓に衝撃波を与え、内部破壊を促す為・・痛みは無かったでしょうが、あんたの心臓は衝撃波を受ける度に傷ついていた、そしてその傷が限界を超えたのよ。」

「まさか・・天下無双と言われた俺が、剣でなく拳に・・それも女に負ける・・とは。」

「貴方の敗因はその言葉ね。確かに天下無双と言われるだけの実力は認めてあげる。だけど・・周りから天下無双と言われた事、私を女と侮った事で何処で驕りが出来て、身体の守りを鎧の硬さに頼りすぎていた。その僅かな慢心が積み重なったのが致命傷になったわね。」

「そうか・・だが、俺は自分の実力を出し切って負けた。悔いはない・・さぁ、とどめを刺して大地に我が屍を晒し、貴様が真の天下無双を名乗るがいい。」

「嫌。」

「何だと!?この俺に生き恥を晒せと言うのか・・」

「違うわ、私の攻撃は間違いなく致命傷になってる。だからそんなに長くは生きられない筈よ。」

「なら何故・・」

「今から敗者への残酷な罰ゲームの・・時間だからよ。さぁ、一緒に来て貰うわよ。マジック、テレポートっ。」

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「ここは・・?」

「私の家の私の部屋。ワンフロワで色々見苦しいけどごめんね。」

「は?」

「はいはい、そこのベッドに寝る!てか、動けないだろうから寝かせてあ・げ・る」

「くっ・・なんという屈辱・・」

「どう?私の愛用の布団の寝心地は。」

「・・最悪だ。まさかお前の家に連れてこられ、そして布団の上で永い眠りにつく事になるとは・・な。」

「剣士としては、剣に敗れ大地に屍を晒したかったんでしょうが・・そうはいかないわよ。そんな夢は粉微塵にしてあげる。あんたは私が生まれて初めて好きになった男、獣のエサなんかにはしたくないわ。」

「・・なんだ・・と?」

「私もあんたの剣と同じく、今までずっと拳の修行に明け暮れてた。言い寄って来る男はいたけど、私のお眼鏡にかなう相手はいなかったから叩き潰してきた。けど、あんたみたいな強い男は初めて・・剣と拳を交えつつ、今までと違う、全く知らない高揚感に満たされてた。これが恋という感情かどうかは分からないけど・・私はあんたが好きよ。だから・・勝って自分の気持ちを伝えたかった。」

「・・女には縁がない人生だと諦めていたが・・男冥利に尽きるな、お前みたいな強い女に好意を寄せられるとは。だか俺も闘いつつ、心の何処でお前の命を奪いたくないと思うようになっていた・・身体の心臓だけでなく、精神の心も撃ち抜かれていたみたいだな。」

「殺し合いしてた以上は矛盾してるけど・・お互いに武に生きる以上は悲しい性よね。」

「全くだ・・叶うならお前に俺の背中を預け、あまたの敵と闘ってみたかった。」

「いいわね、それ。だったら2人で地獄の鬼を相手に、どう?」

「・・デートの誘いか?」

「そ。貴方も私も違いはあれど、武は舞に通じる。1級品の剣舞・・私は拳。観客は鬼だけど、2人でなら素敵なダンスを踊って見せてあげれる思わない?拍手喝采の代わりに剣が交わる音、歓声の代わりにうめき声、花吹雪でなく血飛沫が舞う事になるけど。」

「物騒な初デートだな・・だが、お前となら悪くない。」

「先に行って待ってて。私も・・致命的な傷はないとはいえ、余りにもあんたに斬られた箇所が多すぎて・・失血で頭がクラクラしてる。そんな待たせないから。」

「そうか・・では・・先に・・すまんな。」

「・・ありがとう。私に・・恋を教えてくれて・・じゃ、地獄で一緒にダンス・・しようね。」

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

後日、2人の亡骸を見た者は口を揃えて

「身体は傷や血でこんなにも汚れてるのに、表情は2人共に穏やかで幸せそう。一体何があったんだ・・?」

と訝ったと伝えられる。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

剣と拳、闘いの果て・・ ロキ-M @roki-maruro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ