僕たちの近すぎる距離

雪村灯里

君とダンスを

 アラームが鳴ってしまった。カーテンの隙間から見える空も憎らしい。


 俺は布団にくるまりながら、スマホを手繰り寄せてアラームを止めた。

 画面が切り替わると結衣ゆいからのメッセージと不在着信の通知が見え、さらに気分が重くなる。


 今日の体育祭は休みたい。高校生にもなって『天下無双』なんて書かれたクラスTも御免だ。


 だが、その願いは叶わない。


とおる! 起きなさい。結衣ちゃんが来たわよ! 母さん達、もう行くからね!」


 来たのかよ……


 結衣は近所に住む幼馴染。彼女は慣れた足取りで階段を昇ると、迷うことなく部屋の前で止まり扉をノックする。そして、いつも通り俺の返事を待たずに扉が開いた。彼女はカーテンを開けて、ムスッとした顔で俺を見る。


「ねぇ、昨日の『翔太とダンス踊って』って何?」


 翔太は俺の親友で、ダンスとは体育祭の最後に全校生徒で踊るコロブチカフォークダンスだ。


「最近、翔太と仲いいじゃん。いつまでも幼馴染で組まされるのダルいし。 俺の呪縛から解放されるいい機会だろ?」


 嫉妬と不安がジワリと広がる。それを隠すように、彼女に背を向けて頭から布団を被った。


「呪縛? なによそれ!?」


 すると、体に重みが加わった。


「翔太君には相談に乗ってもらったの!」


 結衣の声が真上から聞こえる。


「おい、やめろよ! そんなところに乗るな! 子供じゃないんだから」

「そうだよ? こんな事するの透だけだよ? 」


 ――は?


「私の気持ちに気付いてよ……透は私の事嫌い?」


 今にも泣きそうな結衣の声。混乱した俺は飛び起きる。すると、結衣は小さく悲鳴を上げて、俺の足元にコロンと倒れた。


「嫌いな訳ないだろ! 俺は、結衣が好きだ」


 漏れ出た本音に慌てて口を押えた。結衣も目を丸くして倒れている。そして俺達は次第に顔が赤くなった。彼女は起き上がると、俯く俺に額をくっつける。


「じゃあ、いいじゃん。一緒に踊ろ?」

「……ああ」


 答えを聞いた結衣は、顔を上げて微笑むと、素早く俺の頬にキスをした。


「じゃあ早く行こう? 下で待ってる」


 彼女はベッドから降りると、部屋を出て階段を駆け下りた。俺が頬に手を添えて呆けてると、翔太からメッセージが入る。


『俺を夫婦喧嘩に巻き込むな! 素直に謝れ』


 俺は、彼女と親友に恵まれてる。

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僕たちの近すぎる距離 雪村灯里 @t_yukimura

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