天下無双の布団ダンス団☆怒りの高級羽毛布団

緋色 刹那

🛌🪿💃🕺

 夜景美しい、ミッドナイトタウン。

 寝る間を惜しんでまで働く、現代人の安眠を守るため、天下無双の布団ダンス団は現れる。


 🌃


「急げ! 納期までに間に合わせろ!」

「〜♪」

「ッ! この、今にも寝落ちそうなヒーリング系のサウンドは!」


 ゆる〜く踊りながら、深夜の時間外労働中デスマーチのオフィスへ侵入する男女。寝巻きとアイマスク姿、布団や抱き枕を背負っている。


 彼らはゆっくりと、しかし着実に社員へと迫った。


「布団ダンス団だ!」

「捕まったら、すやぴされるぞ!」

「警備員は何をしている?!」

「すやぁ」

「ダメだ! 完全に寝落ちてやがる!」


 社員の、パソコンを操作する手は止まらない。イスからも立ち上がれない。ブラック体制に染まりすぎたあまり、脳が仕事パソコンから離れるのを拒絶しているのだ。


 ダンサーは社員を布団でくるみ、至極イージーに捕獲した。


「おやすみぃ」

「もうさぁ、寝ちゃいなよ」

「あなたはだんだん眠くなぁるぅ……」


 耳元で、優しく囁く。

 布団は干し立てのふっかふか。日だまりの中にいるように温かい。


 どの社員も幸せそうに、寝落ちた。


「すやぁ」「ぐぅ」「むにゃむにゃ」


 布団ダンス団はものの数分で、オフィスを制圧。偉そうに指示を飛ばしていた「定時上がりのブチョー」だけが残った。


「わ、わしもすやぴする気か?!」

「まさか。お前は労働基準法違反で、フツーに逮捕だ」

「トホホ」


 🌃


 そのとき、新人ダンサーの綿貫わたぬきは窓の外……ミッドナイトタウン上空を飛行する、謎の白い物体に気づいた。真っ直ぐ、こちらへ向かってきている。


 撤収しようとしていたリーダーや先輩ダンサーに、慌てて報告した。


「一旦木綿か?」

「羽根が生えてるぞ」

「生き物?」


 もっとよく見ようと窓を開けた直後、白い物体がオフィスへ飛び込み、綿貫を丸呑みした。


「綿貫?!」

「何だコレぇ?! すっごいフッカフカだ! フッカフカ、フッカフカ……すやぁ」

「綿貫ーッ!」


 ペッと、白い物体は綿貫を吐き出す。幸せそうな寝顔だ。


 白い物体の正体は、雪原のように真っ白な寝具一式だった。枕、掛け布団、敷布団、マットレス……ところどころほつれ、白い鳥の羽根がはみ出ている。布団はそれらの羽根を使って飛び、ダンサー達を襲った。


「やめッ、すやぁ」

「うわーッ! すやぁ」

「ちょ、もっふもふぅ……」


 次々に寝落ち、亡き者となる。彼らもまた、過重労働かつ寝不足のシティヒューマーだった。


 残ったのはリーダーのみ。

 否、ブチョーも残っている。涙と鼻水で顔がぐじゅぐじゅになりながらも、必死に逃げ回っていた。


「ブチョーさん、大丈夫か? 花粉症か?」

「違う! わしは羽毛アレルギーなんだ! 頼むから、あの布団を近づけんでくれ!」

「羽毛布団……そうか!」


 リーダーは思い出した。


 寝具専門店「寝具シング寝具シング寝具シング」の開発部がかつて、枕、掛け布団、敷き布団、マットレスに至る全てに、一級品のガチョウの羽毛を使用した禁断の寝具を開発した。


 超超超高級羽毛布団、通称「トリの降臨」。まるで巨大な鳥の翼に包まれているような最上級の寝心地で、発売と同時に完売。大人気商品となった。


 ところが、使用した客や従業員が昏睡状態となり、問題になった。原因はガチョウの怨念だった。

 「トリの降臨」で使用したガチョウの羽毛は、違法なルートからも仕入れていた。布団には羽毛をむしり取られたガチョウ達の怨みがこもり、「トリの降臨」は呪われた羽毛布団と化してしまった。


 なぜそんな裏話をリーダーが知っているかというと、彼は「寝具・寝具・寝具」の社員で、売り上げナンバーワンを誇る支店の営業部長だった。

 彼だけではない。布団ダンス団の全メンバーが「寝具・寝具・寝具」の関係者だった。


「あの布団がなぜここに?! 全て廃棄されたはずでは?」

「なんかぁ、ひとつだけ倉庫の奥に残ってましたぁ。売り物かと思って、表に出しちゃってぇ……すやぴ」


 綿貫が寝言で答える。彼も「寝具・寝具・寝具」の新人バイトだった。


 どうやら手違いで、一式だけ廃棄を免れていたらしい。


「仕方ないな。布団に恨みはないが、で解体させてもらう!」


 リーダーは萌えキャラの抱き枕の中から、ハート型のステッキ……にしか見えない、ピンク色の布団叩きを抜いた。


「マジカル☆オフトゥン・ステッキ! 起動ウェイクアップ!」

「?!」


 トリの降臨がひるむ。リーダーはその隙を見逃さない。


「ブチョーさん、今のうちに逃げといたほうがいいぜ!」

「んあ?」


 布団叩きをマットレスの隙間へ差し込む。デスクを足場に、跳躍した。


「マジカル☆オフトゥン・ブレーンバスター!!!」

「ーーー?!」


 体重をかけ、「トリの降臨」を床へ叩きつける。その衝撃で、元々ほつれていた縫い目が大きく裂けた。


「からの、ウィンドミル!」

「ぎょえぇぇぇーーー!!!」


 リーダーは床の上で回転し、中の羽毛を撒き散らす。トルネードのように舞い上がる羽毛、逃げ出すブチョー、ブチョーの悲鳴で目を覚ますダンサー。


 撒き散らされた大量の羽毛はガチョウの姿を成し、外へ飛び去る。まるで「自由の身だ」と言わんばかりに、朝日に向かって。


「朝だな」

「うん」

「帰ろ」

「俺、仮眠取るわ」


 布団ダンス団もアイマスクの下で目をしょぼしょぼさせながら、家に帰った。


 🌃


 再び、街が夜に落ちたとき、布団ダンス団は現れる。現代人の安眠を守るために……。


〈終われ〉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天下無双の布団ダンス団☆怒りの高級羽毛布団 緋色 刹那 @kodiacbear

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ