地獄での出来事 蛇足6 『特訓』 (本編8話付近 旧版32話〜34話付近)


(本編からカットした地獄での出来事集を追加の蛇足として公開いたします。)


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 閻魔女王様とアニオタ神様との秘密会合から一日経ち、特訓の時間になった。


 ここは地獄内の訓練施設のひとつで、観客席が少しだけある闘技場といった感じの作りになっている。

 到着すると、死神ニーナと狐っ子ゲツが待っていた。


「千造ぉぉーーーぉっ!!」

 そう言いながらゲツは飛びついて来た。


「ゲツ〜っ!!」

 俺たちはガッシリとハグしつつ、この再開に歓喜した。


「おぉ〜、千造! 無事で良かったヨー!」

「ゲ、ゲツ……様も……あ、いや、ゲツもな!」

「アハっ!」


 ゲツの安否は知っていたとは言え、約二十日ぶりの再開だ。

 とにかく元気そうで良かった。


「で、ゲツはどうしてここに?」

「……フッフッフ、千造……聞いて驚けヨ! 昨日、閻魔女王様から直々に閻魔の代理執行チームの一員に任命されたんやドーーーっ!!」

「エエっ!? マ、マジでーーーっ!?」

「マジマジのマジやデ! 凄いデーライやろっーーー!!?」

「おぉ〜〜〜! 凄い! やったじゃん!!」

「ヌッハッハッハッハーー!!」


 閻魔女王様が言っていた仲間ってゲツの事だったのか!? 

 そーなら有難い!!


「じゃ、じゃあ現世で一緒に働けるね!」

「そうやデ千造! また一緒やデ!! それと引き続き千造の守護も続けて良いってさ! さすが閻魔女王様、分かってはるわ〜!」


 うわ〜確かに閻魔女王様サマや! 粋な計らいすぎる!


「千造! これからもヨロシクのーっ!!」

「ああヨロシク!! ——って言うか守護の件、どうぞ宜しくお願い致します!」 

「だーかーらー! その言い方はもういいってばヨー」

「あ……ゴ、ゴメン……」


「アハハハハーっ! とにかくヤッタね!! イエーイっ!!」

「イ、イエ〜イ!」

 俺たちはハイタッチし、この奇跡すぎる展開に喜び閻魔女王様に心底感謝した。


 ……


 ゲツは元々取りきの能力を持っていた。しかし今回は閻魔女王様の配慮で記憶閲覧の能力が強化され、さらに罪の記録・・・・の閲覧能力が付与されたらしい。

 

 いつも元気なゲツがさらにやる気満々になっているのを見て、良い気を貰った。


 ……


 さて今回の特訓だが、講師はやはりそれらの能力の使い手でもある死神ニーナが担当するとの事だ。

 当然、今日も髑髏面どくろめんをつけて強面こわもての死神を演じている。


 暫くして、この特訓に協力してくれる鬼が数人やってきた。


 どうやら、鬼の中にも種族がいくつかあるようで、それらに応じて取り憑きや記憶閲覧の難易度もそれぞれ違うらしい。

 それで、まずは一番難易度の低い鬼に取り憑く訓練からのスタートとなった。


 取り憑きのステップは案外シンプルで、霊魂として相手のボディ内に進入し、脳に自分の脳を重ねてコントロールを奪い、乗っ取るという流れだ。


 ニーナが説明を続ける。

「まず、ここに集まってもらった鬼の方々は我々と同じく精神生命体に属する。つまり、ひとつの精神生命体であるオマエたちが別の精神生命体である鬼に取り憑くという構図になる」


 ——俺、いつの間にそんなカッコイイ生命体になってたんだよ!


「……ただ、この地獄においては精神生命体と言っても、幽霊のように身体が透けていたり実体が無いといった訳ではなく、自然に粒子が集まり仮想的な物理ボディを形成している」


 ——『仮想物理バーチャルフィジカルボディ』なんて呼んでも良いのかもな。


「……だからお互いにすり抜ける事なく実際に触れ合う事ができる」


 確かに今はそういう状態だ。——って、あれ? アパートで霊魂になった時から既にそういう状態だったよな?


「……ちなみに、高位の鬼の中にはリアルボディを持つ者もいて、今回の協力者の中にもいる。所謂『受肉した状態』という事だ」


 ハイ『受肉』、また頂きましたぁ〜〜っ!


「……ボディが実在するので、これはもう現世の人間の状態とほぼ同じだ」


 なるほど!


 ……


 死神ニーナからそういった一通りの説明があった後、実際の訓練がスタートした訳だが……。


 ゲツは当然と言えば当然か、一発クリアーだった。


「ハァーーーっ!! エイっ!」

 っと豪快に頭から相手の身体へダイブしている!


 それに比べて俺はと言うと……。


 「千造! オマエは、まずは今の仮想物理ボディを粒子状態に変化させる技の取得からだな」


 ……と言う事になった。


 ニーナ曰く、基本的なボディ形態は四種類あるとの事。


 1. 普通にリアルボディが有る状態——つまり現世の人間を含む生物など。そして受肉した場合もコレ。


 2. 通常の粒子状態で人間にも見えない状態——例えば霊魂とか。


 3. 粒子だが人間にも見える状態——心霊写真の幽霊とか? 


 4. 粒子だが仮想の物理ボディを形成した状態——ポルターガイストとか? 因みにこの地獄では、霊魂を含む殆どの精神生命体が自然にこの状態に変化する。


「この地獄においては自然に4の状態になっているので、そこから3の状態や2の状態に変化する技を練習し、今度は自力で4に戻る技を練習するのだ」

「へ〜い」

「なんだぁ、その返事は! シャキッとしろシャキッとー!」


 な、なんか俺にだけ厳しくないか?

 くそっ、まぁやるしかないか!


「ハイっ! 鬼軍曹どの!」

「——な!? なんだその鬼なんとかって……!? ……ま、まぁいい。——さあ、とにかくとっととヤレッ!」


 ……


 その後もニーナの指導は続いた。

 こ、この死神女……な、なんかイキイキしてねーか?


「ハイハイハイ、休んでる暇ないぞー! じゃ次はその状態変化が瞬時に行えるようになるまでひたすら練習! オラオラオラ〜!」


 ま、また酔ってんじゃねーだろうな?


 まぁでも、これらの状態変化の技はコツを掴めばさほど難しくはなかった。

 それでようやく実際の取り憑き訓練を開始したのだが……

 己の顔を相手の身体の中に潜り込ませるというのは超キモい事だと気づいた。


 それで暫く躊躇していたのだが……

 やはりと言うべきか、死神ニーナに身体を抑え込まれ、鬼の体の中へ無理やり捩じ込まれた……。


「ほら、行けーーーっ!!」

「——うぐっ! ……うぐぐぅ…………」


 や、やはり……キモい! 過呼吸になるぅ〜!


「…………スゥッ、スゥッ、……クソッ……スゥッ、スゥッ……ニーナめ! …………うぐぅ……」


 ……


 そんなふうに強引に捩じ込まれたのだが、暫くしてようやく呼吸が落ち着いてきた。


 それにしても他人の身体の中というのは異常に気持ち悪い世界だ。


 特に自分の脳を相手の脳に重ねた際は……。

 相手の感情が剥き出しでこっちの心に溶け込んでくるし、その身体を乗っ取ったとしてもこれまた他人の五感がこの脳にビンビンに伝わってくる。

 自分の中にもう1人別人がいるような不思議な感覚……。

 実際にはその反対なのだが……。


 それに訓練の相手は人間ではなく鬼。

 今までに味わった事のない奇妙な感覚も襲いかかってくる。

 脳がゆさぶられ、酷い乗り物酔いになった気分だ。


 なので……何度もアレを吐き出すことになった……。


 「う、う、うぷっ……」

 キラキラキラ〜ン…………


 ……それにしても……こっちの気分が悪くなったってのに、取り憑かれた相手の方が実際にアレを吐き出すってのも不思議だ……。


 鬼さんゴメンね……。


 ……


 ただ、その日の訓練が終わる頃にはこの状態にも少しづつ慣れてきていた。

 取り憑きとは言わば、ほぼ強引に相手の脳を乗っ取り全身を支配するような技である。

 一度コツを掴めば、結構楽に脳の乗っ取りが可能となった。


 そして一日目が終了した。


 とりあえず俺は最初の鬼への取り憑きをなんとかマスター出来たのだった。



 …………



 二日目の今日、俺は他の鬼への取り憑き訓練を開始した。


 ゲツの方は、一日目で全ての鬼への取り憑きと肉体コントロールを完璧にマスター。 今日は記憶の閲覧技術の習得を始めたらしい。

 ただ、しっかりとした記憶の閲覧技についてはゲツにとっても未開拓の領域だった為、少し苦労している様子だ。


 この日から訓練がどんどん厳しくなっていった。

 まさに地獄の日々である。


 そして鬼軍曹ならぬ死神軍曹がマジで爆誕してしまった!


 ……


 二日目が終わる頃には精神的にも肉体的にも疲れ果てていた。

  ただ、アレを吐き出すことは無くなりコツも掴み、俺も全ての鬼への取り憑きをクリアー。

 毎日、進展があることだけが救いだった。



 …………



 三日目からは俺も記憶の閲覧訓練をスタート。


 相手の記憶を閲覧するという概念は理解できる。

 しかし、実際にトライしてみると、手や足を動かす時とは違って何をどうすれば良いのか全くイメージが湧かない。

 相手の身体の一部を実際に動かすというコントロール系の技では無いからだ。


「ワレらがオマエに使った技——相手の頭に手を触れるだけで記憶を閲覧する技は難易度が高い。だからまずは初心者向けの方法から始めるぞ!」


「サー、イエッサー!」


 昨晩ゲツと打ち合わせ、今日からはこの返事で行くと決め、さらに敬礼も加える事にしてみた。


「な、何なんだそれ……!? ま、まぁいい。真面目にヤレよ!」

「サー、イエッサー!」

「ったく……」


 まんざらでもないようだ……。


「よし手順を言うぞ〜。まず相手に取り憑き完全に支配した後で、自分の脳を相手の脳に重ね同調させるんだ。この際、強引に相手の脳に入り込むのではなく、一度無心になり、その後勝手に同調されるのを待つのがコツだ!」

「サー、イエッサー!」

「同調された後は相手の脳の記憶領域を探知してみろ。うまく行けば、あたかも自分の記憶を思い起こすように相手の記憶にアクセス可能となる!」

「サー、イエッサー!」

「ハイハイ! じゃあ早速やってみろーっ!」


 …………


 あれから数日かかったが、ようやく記憶の閲覧方法を習得できたので、次は罪の記録を閲覧する技の訓練へと移った。


「人の魂の中には、その者が犯した罪を詳細に記録した領域が存在する。我々はそれを罪の記録領域と呼んでいる!」


「ハイッ!」


「ん? なんだ今日は言わないのか……?」


「はぁ? な、何を?」


「い、いや、なんでもないっ!」


 ……


 この罪の記録領域については興味津々だったのだが、実際の閲覧技術はスグに習得できてしまった。

 罪の記録領域に辿り着く方法さえ習得できれば、後は記憶の閲覧と大差なかったからだ。


 そんなこんなで様々な課題をクリアーし、最終的に記憶閲覧と罪の記録閲覧を習得した我々は最後の仕上げに入った。


 例えば閻魔法廷の進行手順を覚える事。

 その為、ロールプレイで役割を変えながら模擬裁判を何度も行った。

 あるいは作戦行動向けの訓練。

 例えば念話で意思疎通を行うといった細かな技なども習得していった。


 そして最終日までには地獄で行うべき訓練の全ての課題をクリアーしたのだ。


「よーし! オマエら……よくここまで頑張ったな。ここでオマエらに教える事はもう何もない。閻魔の代理執行人として……合格だ!」


「「ヒャッホーーーーーー!!!」」


 そう言ってゲツと俺は段ボールで作った偽の制帽を空高く放り投げた!


「な……、こ、今度は何なんだ!」


「イエーイ! ——って、えっ? 死神ニーナさん、こういうの観た事ないの? 映画とかであるでしょー?」

「映画? し、知らん! そんなモノは観た事ない!」

「ま、マジで……? って、確かに死神が映画観るってのもなんか変か〜」

「……」


「まぁ今度チャンスがあったら観せてあげますよ、鬼軍曹殿!」

「い、いらんわっ!」 

「アハハハっ! まぁそう言わず。……ハハハっ! イエーイ!」


 ……


 ちなみに、刑罰の執行方法については座学で知識としてだけ学んだ状態だ。

 後は現世でニーナから指導を受けながら実戦で習得していく事になっている。


 刑罰の実行……。


 それをやる側になるのだけは勘弁願いたいところだが……。

 まぁ、現時点ではあまり深く考えない事にしよう。

 うん、そうしよう……。


 ……


 いよいよ現世に戻るのである!


 霊魂としてではあるが……。



————————


(地獄での出来事集 本編未収録蛇足集 全6話 完)

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死に損ないの世なおし 〜怨霊幼女編〜 【閻魔の代理執行人】 まこマZ @mako_jp

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