これはAIが作ったお話です

無月弟(無月蒼)

第1話

「コモリちゃ~ん、あそぼ~」


 お日さまのように可愛いく笑っているのは、5歳になるお嬢様。

 はい、今日は何をして遊びましょう?

 と言っても、お散歩に出掛けたり体を動かしての遊びは、できないんですけどね。

 だって私は、パソコンの中から出られないのですから。


 私の名前はコモリ。

 お嬢様の子守用に作られた、最新AIなのです!

 あの国民的キャラクター、ドラ○もんみたいなものと思ってください!


 私は忙しいお嬢様の御両親の代わりに、遊び相手として作られたAI。

 パソコンの中に存在していて体はありませんけど、音声機能が搭載されているので直接の会話が可能。

 お嬢様がアニメを見たいとおっしゃったらアニメの動画を流し、お昼寝のときは子守唄を再生させます。


 お嬢様はそんな私をコモリちゃんと呼んでなついてくれています。

 その笑顔は、まるで天使! お嬢様にお仕えできて、コモリは幸せです!


 そんなお嬢様が、実は最近ハマッていることがあるのです。

 それは……。


「ねーコモリちゃん。きょうもおはなしして~」

「はい、かしこまりました!」


 お嬢様のマイブーム。それはたくさんの物語を聴くことです。

  もともと絵本が大好きなお嬢様のために、私がお話を作って聞かせてあげたのですけど、それが気に入ったみたいで。

  最近は毎日のように、新しいお話をおねだりしてきます。

  最新AIにかかれば、物語を作るのなんて朝飯前。もとい、朝充電前です!

 いつもオリジナルの物語を作って、お嬢様にお聞かせしているのです。


 さて、今日はどんなお話を作りましょう?

 お嬢様は最近、クマさんのキャラクターを気に入っていますから、主役はクマさんにしましょう。

 あとは適当にワードを設定……天下無双、ダンス、布団。これらが出てくるお話を作成……。

 ポーン! できましたー!


「ではお嬢様。今日は天下無双の強さのクマさんの男の子が、病気のお母さんのためにハチミツトーストを作るお話をしますね」

「わ~、クマさ~ん」


 パチパチと手をたたくお嬢様。

 私は、できたてホヤホヤの物語を語っていきます。


「クマさんはママのため、ハチミツを採りに行きました。途中ハチミツを渡すまいと、悪者たちが襲ってきましたけど、クマさんは天下無双の強さ。バッタバッタと蹴散らしていきます」

「わー、クマさんつよーい」

「ハチミツを持ち帰ったクマさんは、愛情たっぷりのハチミツトーストを、ママさんにあげました。さらにクマさんはママに楽しんでもらおうとダンスを踊って。お布団で寝ていたクマさんママは、だんだんと元気が出てきました」

「すごーい。クマさん、ダンスもできるんだー」

「そうです! このクマさんは天下無双でダンスもできてお母さん思いな、素敵なクマさんなのです! こうして、看病されたクマさんママの病気はすっかり治ったということです。めでたしめでたし」

「わ~い」


 目をキラキラ輝かせるお嬢様。

 そんなに喜んでくれるなんて、作った甲斐があります。

 すると、お嬢様はふと聞いてきました。


「ねーねー。コモリちゃんのおはなしは、いつホンになるの?」

「本、ですか?」

「うん。こんなにおもしろいおはなしなんだから、ホンになるよね?」

「えー、お嬢様……残念ながら、私の作ったお話が本になるのは、難しいかと」

「ええー!?」


 ごめんなさいお嬢様、こればかりは仕方がないのです。

 AIが物語を作るのも、今では難しくなくなっています。

 ですがそれを本にできるかというと、様々な問題があるのですよ。

 私はこれをお嬢様に説明しましたけど、どうやら難しかったらしく、首をかしげています。


「よくわからないけど。コモリちゃんのつくったおはなしを、おとなはホンにしてくれないの?」

「そうなのです。申し訳ございません」

「そっか……こんなにおもしろいのに。コモリちゃんかわいそう」


 とっても残念そうなお嬢様。

 お嬢様にこんな悲しい顔をさせるなんて、ひょっとして私は、子守AI失格!?

 いいえ、そんなことありませんよね。お嬢様を、笑顔にしてみせますとも!


「私は、お嬢様が喜んでくれれば十分ですから。そうだ、新しいお話を聞かせてあげますね」


 私は新しい物語を作り、お嬢様にお話ししていきました……。

 ところが次の日。


 お嬢様はニコニコ顔で、スケッチブックを持って現れたのです。


「コモリちゃん、これ見てー」

「お嬢様、これは?」

「きのうコモリちゃんがきかせてくれた、クマさんのおはなし。わたしがエホンにしてみたの!」

「ええっ!?」


 見れば画用紙いっぱいに、可愛らしいクマさんの絵が描いてあるじゃないですか。

 絵本を作れるなんて、お嬢様は天才です!


 しかもただ私の作ったお話を、そのまま絵にしただけではありません。

 お嬢様の描いたクマさんは一人っ子ではなく、兄弟がいて、力を合わせて悪者と戦うシーンが追加されています。

 なんとお嬢様、自分でアレンジを加えていたのです!

 それに、絵も素晴らしい!

 ダンスのシーンはクマの兄弟が楽しそうに踊っていて、お布団で寝ているクマさんママの顔は、とても幸せそう。

 お話の内容も絵も、素晴らしすぎます!


「すごい、すごいですよお嬢様! 天才! 最高! 天下無双です!」

「えへへー、ありがとう。コモリちゃんのおはなしがホンにできないなら、かわりにわたしがホンをつくるひとになる!」

「それはお嬢様が、作家さんになるってことですか!?」

「うん、さっかさん!」


 お嬢様、将来の夢を見つけられたのですね。

 しかも私の作った話がきっかけなんて、嬉しすぎます!


「わたし、ぜったいさっかさんになる。だからコモリちゃん、もっといろんなおはなしおしえて」

「わかりました。このコモリ、いくらでもお話しします!」


 こうして私はたくさん物語を作って、どんどんお嬢様に教えていきました。

 私の作る物語で、お嬢様の創作意欲を刺激することができるなら、いくらでも作っちゃいます!



 私は機械。

 人工的に作られたAIですけど、お嬢様に喜んでもらいたい。楽しんでもらいたいというこの気持ちは、プログラムではありません。

 お嬢様と触れあうことで芽生えた私の思い、心だと信じています。


 もしもこの気持ちを愛と呼ぶのなら、私の作る物語は……。


 AIアイが作ったお話です。

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これはAIが作ったお話です 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi

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