第16話 ひとの恋路を邪魔する奴は・・・12

【羅刹と学生服とハープの少女とヤタガラス、そして。】


 領地は言うに及ばず、王国の国内は羅刹に蹂躙されていた。

 婚礼の準備を、貢物を全国に触れを出してありとあらゆる領地から貢物が集まっているところに野盗の一番強力な千羅刹女が襲来。

 それは、図らずも獲物を差し出すような形になってしまっていた。

 羅刹は、学生服が逃げないように後ろ手に手錠と言わず足枷や、首輪で逃げられないようにしていた。

 とにかく学生服はここから逃げる為、もがいていた。

 羅刹は、彼を一瞥すると、手下に何やら耳打ちをした。

 暫くして、怪しげな毒々しい液体を持ってきた、手下からそれをひったくるようにして、それを取り。

 手下に、邪魔が入らないよう見張るよう言い付けた。

 振り返り、羅刹はそれを口に含み、学生服の傍ににじり寄って来た。

 体力からすれば、圧倒的に羅刹が上である。

 あっという間に、学生服は押し倒され、顔をガッシリ掴まれ、唇を重ね口に含んでいたそれを流し込んだ。

 みるみる彼の目の焦点が合わなくなり、力が無くなり、だらんとなり、人形の様になってしまった。

 彼の足枷や、首輪、手錠を外し、着ている服を脱がし始めた。

 彼はなすがままになっていた。

 羅刹も、着物を脱ぎだし、それを荒々しく脱ぎ捨てた。


 上空から領地のあちこちでは略奪が見て取れた。

 ハープの少女はヤタガラスにもっと速度を上げるよう命令した。

 正面に見える、城の一か所が目標だと彼女は、解っていた。

 彼女の兄の状態は、手に取るように分かる。

 それは、兄妹愛以上の物だった。

 食いしばった奥歯が欠けるほど怒りに震えていた。

 お兄さまに何かあれば、絶対許さない。

 そう、紅蓮の怒りの炎に身を焦がす想いだった。

 速く早く!

 と。


【鞭使いと一角獣のボク、水牛と十手持ち】


 後から一角獣が引っ張ている、大八車が迫って来た、俵の上に胡坐をかいている少女がいた。よく見ると、隣村の大庄屋の娘だ。

 財と、力は近隣の庄屋を凌ぐという。

 噂では聞いている、鞭を使えば右に出る者はいない、しかもその美貌とは正反対と言う位の男勝りと言うか、男そのものという。大人も顔負けの、度胸があって、任侠の組を潰したのは一つや二つどころではないと専らの噂だ。


 隣町の十手持ちさん。

 そう声を掛けてきたのは、鞭使いの彼女だった。

 わっちは、村のみんなの労働を無駄にしたくない、理由はどうあれ、中央から言われたことは必ず果たす、それが後で奪われようが知ったこっちゃない、ちゃんと納めるさ。

 その後の事は知らん。


 十手持ちは、頭を掻いて、小さく溜息をついた。

 そうか、こっちも同じさ、公儀隠密の疑いの彼等、尤も、彼の方は羅刹にさらわれたけど。

 彼女達を中央に連れて行ってこちらも、役目は終りさ。

 ドスドスと、走る水牛の上で言った。


 その水牛の狭い背中の上で、十手持ちは考えた。

 連れて行くまでもなく、こんな彼女達が公儀隠密なわけがない、つまらない中央のせいで、余計な仕事を増やして。

 相変わらず本を開いている、ブレザーの方からの視線が感じられたのでチラと見てみた。

 不思議と、彼女はさっと目を逸らした。

 十手持ちは不思議に思いながら。


 もうすぐ到着する都を望んだ。


【王子と御姫様と眼帯そして獣人】


 そんな、奴に野太刀振りかざしてどうすんだ。

 獣人は眼帯に声を掛けた。

 眼帯は王子に向けて、大きく振り上げていた野太刀を止めた。

 なんだ、羅刹に散々やられた奴が何言っている。

 鳥女ハーピーに抱えられた姿の獣人に向け言った。


 俺が言ってるのは、そこにへたっている王子だっけ、そんな奴相手にお前ごときが相手をするとは。

 って意味だ、どうせ、こいつの国は今頃羅刹に占領されてるさ。


 フン、と言いながら、眼帯は刀を納めた。

 確かに、そうだな。

 眼帯、

 あいつとの勝負はついて居ねえからな。

 獣人、

 俺もそうだ、それに、今ならまだ盗れるものが残ってるはずだ。


 眼帯は、姫の方を向き直り腰元を呼び寄せて、都まで連れて行くよう言った。

 姫は喜々として腰元を呼び一緒に飛び立った。

 それを、王子は絶望の顔で見送るしかなかった。


 それを、ジッと見ていた獣人は。

 好きな女一人どうにもできないなんて。

 そんな奴が国一つまともに納める事なんてできるわきゃねえだろ。

 しっかりしろよ、坊主。

 坊主だよ、坊主。

 坊主の方がまだましだ、手に入れるまで駄々こねるなりなんなりして、行動するだろうが。

 好きなら、死ぬ気でかかって行かねえか。

 だから寝取られんだよバーカ。


 鳥女ハーピーに抱えられながら、飛び立った。


 王子は悔し涙でグシャグシャになっていた。


 そこへ、今飛び立った鳥女ハーピーの一人が戻って来た。


 乗りな、あの人が、お前を連れてこいって言われたから、あんたを都まで連れて行くよ。

 あんたが、わっちの男でなくて良かった。

 あんたが初物でも、願い下げだね。


 優しさと強さは表裏一体さ、難しくてわかんねえなら勉強するこった。

 大空に羽ばたきながら、背中の王子に鳥女ハーピーは言った。




 目の前に都に迫っていた。

 その姿は数日前と明らかに変わっていた。

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異世界と言う幽世はこちらですか。 吉高 都司 (ヨシダカ ツツジ) @potentiometer

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