第15話 ひとの恋路を邪魔する奴は・・・11

【千羅刹女と学生服】


 この人だけはもう離さない、あの時死んだはずの我が夫が、ここに戻って来たのだ。

 私の坊やは憎き敵に、殺められ、私も辱められた。

 地獄のような日々、だから他人の幸せを壊したくなる、儲けやお金なんぞ鼻からどうでもいい、手下にくれてやる、ただ、私は他人の幸せが、幸せに満ちた笑顔がたまらなく憎い。

 だから、今あの人がここに戻って来たことで、何もいらない。

 ただ、二人だけで暮らすだけの場所が欲しい。

 だから、この領地を私がもらう。

 丁度、王子とやらがあの峠に出払っているというじゃないか。

 丁度いい。

 貢物も集まっているらしい。

 国も財産も全て貰ってやろう。

 後は、この人と永遠に暮らしていければいい。

 ずっと。


 学生服を抱え、大空に舞って領地上空に着いた途端、千羅刹女の手下は狂ったように領地を蹂躙し始めた。



【一角獣のボクと鞭使い】


 蹄で大地を掻き一角獣は大八車を渾身の力で、峠を越え領地へと入った。

 その噴き出る汗に、鞭使いの彼女はうっとりしていた、誰の目をはばかることなく、彼と、自分だけの時間がそこにあればと、ただうっとり見ていた。

 思わず、しなる筋肉に頬ずりをしたくなる衝動に駆られ、ハッと我に返り、ダメダメ、どれだけ年が離れてるの。

 この子に手を出したら、犯罪よ、犯罪。

 そう、自分に言い聞かせその代わり手綱を握り締めた。

 その矢先、彼から自分の心を見透かされたのか、一角獣のボクから声がかかった。

 おねいちゃん、しっかりつかまっててね。


 その声を聞いて。

 ああ、とゾクゾクする自分の気持ちを抑えるのに必死だった。

 ぐっと堪えた。

 この貢物を納め、我が村の安堵を約束してもらうため、遥々ここまで来たのだ、暫くの辛抱と、火照る体を抑え込み、速度を速めた。



【獣人と十手持ち一行】


 傷だらけの、獣人は鳥女に両脇を抱えられ、羅刹女を追うため、手下と共にその場を発とうとした。


 相変わらず、水牛とセーラー服はいちゃいちゃしている。

 それを横目で見ていた十手持ちは、セーラー服と、ブレザーが同乗している水牛の上で、獣人声を掛けた。


 俺達は、お上の言いつけで、公儀隠密の疑いのあるこいつらを、連れて行くんだが、お前さんはどうする。

 羅刹女の後を追うのかい?


 獣人は、

 ああ、これだけ痛めつけられた、落とし前は付けてもらわねえとな。


 頭を掻き、天を仰ぎ少し小さなため息を付いて、

 十手持ちは獣人に。

 そうかえ、まあ、凶状持ちのお前らの切った張ったなんかは興味がねえが、無辜の民に何かあれば、この十手が黙っちゃいねえぜ。

 と、ニヤリと笑った。


 獣人は無言で、向こうへ行ってくれと言わんばかりに、掌で追い払った。


 じゃあな、と、十手持ち一行は走り出した。



【王子と御姫様と眼帯】


 わ、わたしはこの姫と、夫婦になる約束をしている、も、も、者です。

 がちがちに固まって、言葉もしどろもどろになっている王子は言った。


 静かに、見下ろす眼帯の彼女の眼光は鋭かった。

 傍らには、何本目かのキャンデイーの封を開け口に頬張る姫が眼帯の彼女の袖を掴んでいた。

 それを、見て王子はもう一度言った。

 彼女を返して欲しい、不義密通は重罪だが、婚礼の祝い事の為、不問にいたす、故に返してもらいたい。


 そう言い放って、まんじりとせず、眼帯の彼女の言葉を待った、尤も待っているのは彼だけでなく、袖を掴んでいる姫も同じだった。


 ゆっくりと、野太刀を構えたのは眼帯の彼女だった。


 引きつる王子を、驚く姫を無視し、王子に向かって太刀を振りかぶった。



【ヤタガラスとハープの少女】


 お傷は大丈夫ですか、ヤタガラス三人娘は近寄ってハープの少女の傷の具合を見た。

 が、ハープの娘はハープの弦を握り締め、歯ぎしりをし参院を寄せ付けないほどのオーラを発していた。

 お傷は深く御座いませんが、ここはひとつ、一度館に戻り体勢を立て直しては。

 と意見具申した一人を睨みつけ、お兄さまがさらわれたのです、ええい口惜しや、館に帰るなど以ての外、すぐさま後を追います。

 そして、

 さあ何をグズグズしてるのです。


 と、三人を叱咤し、変身した三人の背中に乗り大空に羽ばたいた。

 かくなるうえは、お兄さまを覚醒させる以外にありません。


 ヤタガラス三人は、背中に向かって、それはお嬢様、おやめになった方が、と。


 いいや、私は決めました、あの女にお兄さまを奪われる位ならば、死なば諸共です。

 少女の決意は固かった、その証拠に握り締めたハープの弦が指に食い込み血が滲んでいたほどに。


 ヤタガラスは観念し領地に向かい、速度を速めた。

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