第14話 ひとの恋路を邪魔する奴は・・・10

【王子と姫と】


 姫、帰りましょう。

 王子が大声で一団の向こう側に放った。

 羅刹女、水牛に乗った学生服の一団、ハープを持った少女、そして黒い着物を着た三人の女性、姫と一緒にいる長身の眼帯をした女性、そして今羅刹女に飛びかかる獣人。

 道端には鳥女が二人転がっている、死んではいなさそうだ。

 もう一度、王子は叫んだ。

 が、打ち込んだ剣を弾く羅刹女の鉞の音が辺り一面響き、掻き消された。


 王子を引き止める、家臣を引き剥がし、姫の方へ駆け出した。

 キャンデイーを咥えている姫は、ギョッ、とし後ずさりしながら、キャンデイーを噛み砕き、細かくなったそれを、王子に向かって一粒づづ、口から含み針の如く弾いた。

 王子は躱しながら、間合いを詰め、眼帯の長身の脇をするりと抜け、姫の手を取り、言った。

 さあ帰りましょう。

 チラと、眼帯の女性を見て。

 私は、何ごとも無かったと信じて、貴方を迎える決意で来ました。

 それを、聞いたのか、長身の眼帯の彼女は、羅刹女の方向に何かを叫び、その場から地面が抉れるほどの踏み込みで、跳躍していった。


 手を握られた、姫は顔を真っ赤にして、気が動転したのだろうか、残りの噛み砕いた破片を口から指弾の如く吐き出したが、軌跡があらかじめわかっているのか、至近距離にもかかわらず全て躱した。

 さあ。

 と王子が手を再び強く握ると、姫はより顔が硬直し、より紅潮した。


 ふと、姫の肩越しに村の方角から、この混沌とした峠に向け、馬に繋がれた、大八車がやってくるのが見えた。


【水牛と羅刹と獣人と眼帯とそしてハープと】


 眼帯の長身とタイミングがほぼ同時に獣人が羅刹に飛びかかった。

 一人は野太刀を振りかぶり。

 一人は小刀二刀を十字に構え。

 特に、息を合わせた訳ではない、戦場での共通の敵に対する、阿吽の呼吸だろうか。

 羅刹と言う、自分の力では到底かなわないという思いを、掻き消すかのように、巨大な敵に向かい、見ず知らずの仮初めの味方というものを当てにする。

 本来ならば、己一人で潰すべきであろう、が、自己の満足を捨て実を取らねばならないそれほど敵は強く強大だった。


 が、一振り、そして返す刃で一振り、野太刀、二刀は薙ぎ払われた。

 弾かれ、地面に両足を踏ん張り体勢を保つのがやっとだった。


 羅刹はその二人に、一瞥もせず、水牛の元に駆け寄り、学生服の傍に行き見上げた。

 貴方、戻って来てくれたのですね、さあ、行きましょう。

 そう言うと、仲間を呼ぶ合図をしたかと思うと、今まであちらこちらで戦っていた、羅刹の手下が一瞬の間に駆け寄って来て。

 水牛と、それに乗っているセーラー服とブレザー、そして十手持ちも一緒に囲まれ、身動きを取れなくされ、拐されて連行されてしまっていた。

 ただ、学生服だけは羅刹の膝の上に座らされ、用意した輿に乗らされて天空高く舞い上がった。


 そして、領主の首都の方に飛んでいった。

 ハープは矢を番えて次弾を撃とうとしたが、羅刹の手下に阻まれ打てずにいた。


 残された人々は、あまりにも呆気ない戦いの終わりに、途方に暮れていた。


 獣人は傷ついたところを押さえつつ、飛び去った方角を望み、

 首都を襲いに行ったのか。

 と、一言呟いた。


【大八車と鞭とボク】


 おねいちゃん、そういって、大八車の影から出てきたのは、幼いころから懇意にしている近所の男の子。

 上目づかいで、すまなさそうに、言う彼には彼女は内心うれしくて仕方なかった。

 彼女の周りには彼女の財産や、力、そして美貌を目当てに寄って来る男ばかりで、うんざりしていた。

 だから、わざと粗暴な言動を周りに繰り返して、鞭を振り回し男共を近づけないようにしていた。

 そこで、出会ったのが彼であり、純真な瞳を見ると、ゾクゾクしてしまっている自分がいた。

 そんなことは隠さなくてはと、ついそっけなくしてしまい、そこで、小動物のような瞳で見られることに快感を覚えてしまっていた。

 あともう一つ。


 ボク、変身するねといい、骨、肉がきしむ音を響かせながら巨大な筋肉隆々なユニコーンとなった。

 みんな逃げちゃったから、ボクに荷物を繋いだらいいよ。


 ともう一つの理由がこれであった。

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