第13話 ひとの恋路を邪魔する奴は・・・9
【ハープと鉞の事】
およそ、その力、技量が互角ならば、ほとんど決着は運、タイミングが大勢を決める。
矢を番えたハープの弦を引き絞り、雷矢を放った。
急降下しながら、次の矢を番えつつ、ヤタガラスの背中から飛降りた。
二の矢、三の矢を躱した千羅刹女は、体を滑らすように降りて来るそのハープにめがけ、落下地点へ向かった。
移動速度が速いのか、見の躱し方が尋常ではない位、その矢は羅刹の残像にしかとらえることが出来なかった。
クソ、と叫び、続けて数えきれない矢を番い放つが、どれも空しく残像のみ当たっていた。
着地地点に、膝を付き体勢を整える間もなく、羅刹女は両手の鉞を大きく振りかぶって今まさに打ち下ろそうとしていた。
お嬢様。
羅刹の死角から、三人、三匹のヤタガラスが、一人は分銅を、一人は鎌を、一人は手甲を撃ち込んだ。
体勢を整えながら、羅刹は間合いを退きそれらを躱した。
お嬢様、危のう御座います、お引き下さい。
ヤタガラスは声を揃えお嬢様と屋ばれているハープの持ち主に言った。
獣人は落下して大地に激突し、暫く動けずにいたが、這いだし一足飛びに間合いを詰め言った。
お前の相手は俺だろうが。
フン、ボロボロじゃないか、と羅刹女。
続けて、
お前に私の夫、子供そして私自身の心を殺された者の苦しみが分かるか。
みんな、みんな、私と同じ苦しみを受けるがいい、だから、容赦しない、骸を前に、傷つけられた私の心と同じ思いをすればいい、誰も幸せに笑わせるものか。
苦しみは皆同じだ。
と、獣人は打ち込んだ。
【姫と王子の事】
ようやく峠だ、ややっ、あのバカでかい水牛はなんだ、その上に何やら見慣れぬ風体の男女、一体どういう組み合わせだ。
そういって、王子がその集団の遠くから見ていると
殆ど兵士は数人しかいなく、その兵士も後ずさりして、今にも逃げ出しそうだった。
千羅刹女は、さっきのハープの女と獣人が引き付けてくれた、今のうちにここから離脱するぞと、十手持ちは、水牛に目配せをして、そいつの上に乗りここを一気に抜けるぞと駆け出しかけた。
よし、走れ、と言って走り出した時。
上空から、龍が舞い降り、その背中にのった、眼帯の女、キャンデイーを咥えた少女が降りてきた。
眼帯の女は、水牛の上に乗っている四人をみて、公儀隠密はこの中の誰だい。
と。
そして、視線を千羅刹女に向けた途端顔色が変わった。
姫。
と峠の遠くから、声が聞えた。
一瞬ビクッとした姫と呼ばれた者が恐る恐る振り向くと、全速力で声の主の王子が駆けててきた。
みるみる姫は、顔色が変わり、咥えていたキャンデイーを噛み砕いてしまった。
次のキャンデイーを咥えると、どうしてここに、と思わず口に出してしまった。
姫に会いに、そしてお助けすために、勇気を振り絞ってきました。
と大きく手を、腕を広げ走って来た。
【大八車の上の事】
なんだいなんだい、どうした早く進まねえかい。
大八車の上で、大の字で寝ていた豪農の娘は、深い眠りから覚め一向に動いていない大八車の上から、引っ張っている、男衆に声を掛けた。
姐さん、いけねえや、この先は野盗や山賊やらが取り込んでる最中でさ。
姐さんと呼ばれた、豪農の娘は俵の上から遠くを見渡した。
確かに、大人数の人間や、獣人、半獣人、人ならざる者やなどが何やら取り込んでいるようだ、土煙、爆炎、雷炎、列炎、金属音、そして叫び声、咆哮、とにかくこの先は尋常ならざる事が容易に想像できた。
気が付くと、男衆は、後ずさりしつつ、大八車を捨て、姐さんと言うものを打ち投げて逃げてしまった。
おい待ちやがれ、と姐さんと呼ばれていて娘が呼び止めても、周りには誰もいなくなり、ただ、彼女一人俵の上で置いてけぼりを喰らってしまった。
何だい、なんだい、怖気づきやがって、お前たち男だろう、キン〇ついてんだろう、バッキャローめ。
逃げていった、男衆に罵詈雑言を投げつけ地団太を踏んでいた。
さあ、どうしようかね、と俵の上で胡坐をかき、思案に暮れていた。
あの、
と大八車の上から見ると丁度死角になっているところから、声がした。
身を乗り出してみてみると、小動物のような、潤んだ目で見上げている男、いや男の子がいた。
おめえは。
と驚き、戸惑った表情になった。
【羅刹女と眼帯と獣人の事そして学生服】
眼帯の奥の無い眼球がお前を探していたよ、とヤタガラスの間に割っては飛び込んだ。
公儀隠密を目の前にして、その獲物よりもやられた、傷の恨みの方が勝り、先にこっちのけりを付けてからだと、千羅刹女の方を取った。
眼帯の彼女が野太刀を千羅刹女の眉間に目掛け十段突きを繰り出した。
急に割って入られた、ヤタガラスは面食らったが、隙を見て再度十羅刹に飛びかかった、ところが、あっという間に三匹を、いや三人を峰打ちで叩き落とした。
三人は、なにをする。
と、眼帯の彼女に叫んだ。
ゆっくり、眼帯の彼女は、野太刀を羅刹女に構え直し、こいつは私の得物、いや、遺恨を残す者、私がヤル。
と、三人を見ずいった。
三人は戸惑い、ハープの主を見た、
ハープの主は、お兄さまさえ無事なら結構、さ、長居は無用。
と言うと、水牛の上に乗っているお兄さまと呼ばれている学生服の元に駆け寄った。
待ちな、羅刹女は駆けていく、ハープの一行の元へ一足で駆け翔んだ。丁度、水牛との間に。
お前たち、この私に弓を弾いてただで帰れると思っているのかい?と鉞を大きく両手に広げ言った。
背にいる水牛の一行にも言った。
一度狙った獲物は逃がさないよ。
と、チラと羅刹女は水牛の上に乗っている、一行をみた。
その時、学生服の事を改めて間近で初めて見た。
羅刹女に衝撃が走った。
お、お前さん、生きていたのかえ。
そう、言うと構えていた両手の鉞が緩んだ。
瞬間、獣人が、ここは俺の縄張りだ、と満身創痍の状態で羅刹女に打ち込んだ。
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