振り向いたら「なかったこと」になっているかもしれない、ゆがんだ記憶。

 ちょっと奇妙で、ヒヤリとする、時間や空間の体験を扱った短編集。なんとなく記憶にこびりついた奇怪な出来事、でも思い出そうとすればするほどその体験はゆがんでいく……果たしてあれは、本当にあったことなのだろうか。読む間だけ、何かがねじれた小さな世界を垣間見ることができる。現実離れしているのに、不思議なリアリティに満ちた筆致、短編ゆえのテンポのよい展開、愕然とさせてくれる結末。「こんな経験はないけれど、でもこの白昼夢みたいな奇妙さは知っている気がする」と感じたあなたももしかすると、記憶の一部が「なかったこと」にされているのかもしれない……。

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