掴め!ラストチャンス

幸まる

ラストチャンス?

あの夢を見たのは、これで9回目だった。


新年度、靴箱に貼り出されたクラス分け表。

五十音順に並んだ名前を辿る。

同じクラスであれば、浅田芦原は隣合わせだ。

同学年の“あ”から始まる名前は確認済み。

俺達の間に入れる奴はいない。


あった!


並んだ名前を見つけて興奮していることを隠し、君がやって来たら何気ない調子で「同じクラスだね」と言う。

「1年間よろしくね」と、君が笑う。


花のように……。





けたたましい目覚ましで将生まさきは飛び起きた。


ああ、まただ。

新年度が始まる朝、必ず見る夢。

小学校入学から、中学3年生になった始業式の日の朝、まさに今、9回目の夢を見て起きたのだ。



将生は朝の支度をしながら気合を入れる。


小学校入学前、隣に引っ越してきた芦原あしはらさくら

初めて挨拶をした日に彼女に一目惚れして、それからずっと片想いしている。

近所で会うことはあっても、軽く言葉を交わしたことしかない。

だけどいつだって彼女は感じが良くて、何より笑顔が素敵なのだ。


まるで春が来て花の蕾が開くように。

自然と周りを温かくしてくれる笑顔。



あの笑顔を、俺の為に向けて欲しい。



将生はずっと、そう思っていた。

その為に、学校で接点を持ちたい。

だからこそ同じクラスになりたいと願い続けているのに、小学校1年生から、まさかの8連敗だった。

小中学校義務教育は同じでも、高校は別の学校になる。

中学3年のこの年が、彼女と同じクラスになって仲良くなる、ラストチャンスなのだ。




そして今、9連敗が決定した。




貼り出されたクラス分け表を見て、将生は項垂れた。

彼女はまた、別のクラスだった。


こんなことある?

9回もチャンスがあったのに、全敗だぞ。


お先真っ暗な気分の将生の肩を、ツンと誰かが突付いた。

桜だ。

将生は目を剥いた。


「私達、一度も同じクラスになれなかったね」

「え? う、うん……」

「高校は一緒のクラスになりたいね」

「えっ!?」

「私、北高の推薦受ける予定なの。浅田くんも北高第一志望なんでしょ」


桜が花のように笑った。



一緒の高校?

なんで俺の志望校知ってるの!?

俺と、一緒のクラスに、……!?



そそそれは、どういう意味ですかぁっ!?




どうやら10回目のチャンスは残されたようだ!





《 おしまい 》

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