シタミデミタシの漫才考察 ~ツカミについて~

たたみや

第1話

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 実は、くがっちは今回このフレーズをツカミに試したいようだ。

「さとるー」

「どうしたんだ、くがっち?」

「ぼく思うことがあってさ」

「聞かせてくれよ」

「ツカミについてもっと力を入れたいなと思ってさ」

 シタミデミタシの二人がファミレスでネタの出し合いをしている時だった。

 くがっちから突然の提案を受け、悟は少々面食らってしまった。

「ツカミのパターンを増やすってことか?」

「ちょっと新しいのを考えててさ。今度の地方営業でやってみてもいいかな?」

「いいぜ。まずはくがっちが考えてきたネタ、見せてくれよ」

 こうしてシタミデミタシの二人は、話し合いながら確実にネタを仕上げていった。

 

 そして、ついに新ネタ披露の時が来た。


「あの夢を見たのは、これで9回目だった。ぐふふ」

「どんな夢見たんだよおい! シタミデミタシでーす、よろしくお願いしまーす」

「さとる」

「どうした?」

「アイ ハブ ア ドリーム!」

「キング牧師か! 急にどうしたんだよくがっち!」

「こうして漫才やらせてもらってさ、シタミデミタシドリームを叶えたわけじゃない」

「よく言えたなあそんな恥ずかしいの! そんで俺たち大して成功してないぞ!」

「まあまあ、そういうのって後世が決めることだからさ」

「だったらなおさら言うな!」

「でも、ぼくは実際に漫才を始めてから叶った夢ってあるんだよね」

「そうなんだ、例えばどんな夢なんだ?」

「ぼく家がすごく貧乏してたからさ、いっぱいお肉が食べたかったんだ」

「そうだったなあ、くがっち言ってたなあ」

「鶏肉いっぱいの親子丼、おいしかったなあ。そうそう、鶏肉ってカエルの肉と似てるよね」

「逆だろ逆! 例えるならな!」

「それまでは畑の肉ばっかりだったから」

「大豆製品な。豆腐とかそうだもんなあ」

「冷奴、湯豆腐、豆腐ハンバーグ、豆腐グラタン、豆腐ステーキ……」

「それなりに楽しんでねえか?」

「あと、うちは色々と厳しかったからさ」

「想像つかないくらい厳しい感じなのか?」

「家訓があってさ。『欲しがりませんしもらえません!』」

「悲しくなるからやめろ! 泣いちまうよ漫才中に」

「それでもお肉が欲しくなる時があってさ。さとるはテンって知ってる?」

「トキを襲ったと言われているイタチの仲間か」

「そうそう。車にはねられてたテンを持って帰って捌いてさ」

「自然系YouTuberか! 様子を動画にしてYouTubeにあげてたら結構なことになってたかもな」

「当時はそんなこと思いつかなかったし、撮影器具なんて買えなかったよ」

「そうだよな、すまねえな」

「いいんだ。それが今ではお肉食べられるようになって嬉しいよ」

「良かったぜ。いまのくがっちが幸せそうでさ」

「あの頃のことは今となっては……、やっぱやだな」

「だろうな! くがっちの家の闇に触れるのはやめとくわ!」

「後はね、声援をたくさん頂けるようになってすごく嬉しい!」

「それは俺もそうだな」

「いじめられることはあっても、応援されることなんて人生でなかったから。ファンレター頂いた時にはびっくりしたよ!」

「そうだよなあ」

「この手紙を10人以上の人に贈らないと」

「不幸の手紙じゃねえか! 最近めっきり聞かねえけどさ」

「妙なURLに誘導するメールが届いたりしたよね?」

「スパムメールなあ。あれうっとおしいな」

「これとおにぎりどうやって組み合わせてるんだろ?」

「そっちのスパムじゃねえよ! スペルは一緒なんだけどさ」

「スパムおにぎりいいよね!」

「やっぱくがっちはお肉系が好きなんだな」

「島人ぬ宝だもんね!」

「誰もそこまで言ってねえよ! 沖縄はもっといいもんあるわ!」

「ふざけたことばかり言ってるけどさ、ぼくたちのネタで元気出して下さる方や喜んで下さる方がいらっしゃるって素晴らしいことだなって思うんだ」

「ふざけてる自覚はあるんだな。確かにくがっちの言う通りだよ」

「いつかは傷ついた人を励ましてあげられるような人間になりたいと思ってたんだ」

「それはいい考えだと思うぜくがっち!」

「Yo! Yo! Year! Year!」

「ラップで人を励ますのは厳しいだろ!」

「くがラップじゃダメ?」

「くがラップじゃダメ!」

「じゃあチアとかどうかな? フレー、フレー、欲しがりませんしもらえません!」

「あの家訓で励ませるわけねえだろ!」

「人生ってそんなハードモードばっかじゃないもんね」

「くがっちが言うと説得力がエグいぞ!」

「あとは気持ちが落ち着く、癒されるってのもいいよね。病める時も 健やかなる時も 富める時も 貧しき時も」

「くがっちそっちの路線も考えてたんだな」

「アイ ハブ ア ドリーム!」

「もういいだろキング牧師は!」

「あ、でも牧師さんになりたかったことはあるよ」

「マジで アイ ハブ ア ドリーム 目指してたのかよ! もういいぜ、どうもありがとうございました」



 シタミデミタシの新ネタに、会場は大いに盛り上がった。

 その様子を見た悟とくがっちはホッとしていた。

「新ネタ、悪くなかったなくがっち」

「そうだね、でも」

「でも?」

「もっとツカミについて色々考えてみようと思うんだ」

「そうだよな、ツカミって大事だもんな。くがっちばっかりに任せっぱなしも悪いから、俺も考えてみるよ」

「もっと面白いネタ、作りたいね」

「ああ、そうさ。そうでなくちゃな」

 こうして、シタミデミタシの二人はまだまだ自分たちのお笑いを追求し続けることを心に誓ったのだった。

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