永遠に終わらない作業
野地マルテ
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
一年前の今日、私は書籍化デビューした。
はじめての書籍化作業は難航を極め、二回の冬期休業と一回の夏季休業期間をすべて潰すことになった。
原作は書籍にするにはやや文字数が多く、泣く泣く削ることになった。
原文を削りつつ、担当編集から指示された新規エピソードを入れる作業はとんでもなく難しく、家のノートPCの前で泣いたのは一度や二度ではなかった。
何度書籍化作業をギブアップしようと考えたか分からない。
辛くて辛くて。
三十代後半まで生きてきて、だんとつで辛い仕事になった。
いつしかノートPCを開くことすら辛くなり、机の隣りにゴミ箱を置き、吐き気を堪えながら作業を進めた。
書籍化作業の一番辛いところは、キャラクターの考察だった。
地の文の加筆を求められることが多く、キャラクターの心情を描くには今まで以上にキャラクターへの理解を深めることが必要だった。
私は会社員をしているが、通勤中も仕事中も、寝る前も、一日中キャラクター達のことを考えていた。
「こういう時、このキャラクターだったらどう思うだろう」そんなことばかり考えていた。
脳を常にフル回転させていたせいか、夜は泣かなか眠れないし、仕事には集中できない。
常にイライラしていた。
そこで私は自分にご褒美を与えることにした。ある一定量の作業をしたら、好きな漫画を一話読んでいいことにしたのだ。
好きな漫画をぶら下げた作戦は功を奏し、一生終わらないかと思っていた作業を何とか終わらせることができた。
しかし、脳はまだ書籍化作業が終わったと認めていないのか。
本が出てから一年になるというのに、まだ夢に見るのだ。
書籍化作業をしている夢を。
Wordの隅には担当編集からのコメントがびっしり書いてあり、それに沿った文章の修正がいるのだが、どう書き直してよいものか分からず途方にくれている。頭をひねっているうちに、どんどん時間ばかりが過ぎていく。
そんな夢を見ては、汗びっしょりになって起きるのだ。
枕元には常に書籍を置いていて、書籍化作業の夢を見ては、その本を胸に抱いている。
もう本は出た。私はもう、この本を作るための作業は必要ないのだと確認している。
永遠に終わらない作業 野地マルテ @nojimaru_tin
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