恐怖の大王〈アホウドリ・ハルマゲドン〉
緋色 刹那
🌏🔥
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
宇宙の彼方より迫る、燃え盛る巨大なアホウドリ。アホウドリは地球への着陸を試みたものの、南極の氷でずっこけ、地球もろとも爆散した。
この世の終わりと呼ぶに相応しい、恐ろしい光景だった。
何度も同じ夢を見たのは偶然じゃない。夢生成AI、ドリームメイカーの仕業だ。
ドリームメイカーには、使用者の願望をスキャンし、夢として見せることで、使用者のストレスを軽減する機能がある。
だが、最近は調子が悪い。
何度スキャンしても、「宇宙の彼方より、恐怖の大王〈アホウドリ・ハルマゲドン〉が降臨し、地球を破壊する」という、異常者しか喜ばないような夢を見せてくる。
今日はスキャンせず、「多種多様な女の子とのラブラブ学園ライフ」を夢指定したのに、またアホウドリ・ハルマゲドンがコケて、地球が爆散した。絶対、おかしい。
『おはよう、少年。いい夢は見られたかな?』
「どぅわッ?!」
目を覚ますと、見知らぬ女性のホログラムが俺の顔を覗き込んでいた。
「誰?!」
『宇宙災害対策本部の者……とだけ言っておこう。ひとまず、ツバメと呼んでくれ』
「はぁ」
『まずは残念なお知らせだ。君が9度見た夢は、夢ではない。あらゆるデータを元に地球の未来を予測する、予言生成AI"フューチャーメイカー"の廃棄データだ」
「予知夢だったってことですか?」
『しかも、その予言は的中している』
「なッ?!」
モニターに、宇宙を飛ぶ巨大な火の鳥が映る。間違いない……アホウドリ・ハルマゲドンだ。
『先程、人工衛星の一基がアホウドリ・ハルマゲドンを観測した。真っ直ぐ、地球へ向かってきている』
「あの鳥、実在するんですか?」
『全宇宙を旅する、地球外生命体さ。地球のアホウドリ同様、着陸が不得手でね。着陸に失敗しては、いくつもの天体を破壊してきた。今度は地球を標的にするつもりらしい』
「いつ来るんですか? 助かる方法は?」
『一ヶ月後の2999年7月。助かる方法は、今はまだない』
「今、は?」
ツバメは微笑む。嫌な予感がした。
『君がその方法を見つけるんだよ。フューチャーメイカーの廃棄データにアクセスできた君なら、アホウドリ・ハルマゲドンを回避できる方法も見つけられるかもしれない』
ドリームメイカーを介し、フューチャーメイカーの廃棄データへアクセスできたのは、俺しかいないらしい。
フューチャーメイカーの廃棄データの中には、アホウドリ・ハルマゲドンを回避した未来の予測データもあるはず……俺なら、その未来も「夢」として見られるかもしれない、とツバメは話した。
『過酷な作業になるだろう。それでも、やってもらわねばならない。地球を救うために』
「ちなみにそのお話、断ることは?」
『できるけど、死ぬよ。一ヶ月後に、確実に』
「ですよね」
残りの一ヶ月間。あの夢を見せられ続けるのは酷だが、仕方ない。
それに、こういう状況……ちょっとあこがれてたんだ。世界の命運がかかったヒーローになるの。
「やります。俺にしかできないのなら」
🐏
俺は一日に何度も眠り、地球を救える未来を探した。
何度も地球が爆散する未来を見せられて、気が変になったり、本当に地球が爆散したかと思って飛び起きたりもしたが、ツバメのバックアップのおかげで、どうにか耐えられた。
夢を見始めて、一週間が経とうとしていた頃、「大量のスペースデブリを固めて、地球に似た天体を作り、アホウドリ・ハルマゲドンを欺く」という未来を見た。
アホウドリ・ハルマゲドンは偽物の地球への着陸を試み、派手にすっころんで宇宙の彼方へ消えていった。
「これだ! この方法なら、助かるかもしれない!」
このことはツバメから世界のお偉いさんへ伝えられ、アホウドリ・ハルマゲドンが現れる一週間前には、偽物の地球は完成した。爆散しても地球への影響がない場所で、本物そっくりに青く輝いていた。
2999年、7月。予言どおり、アホウドリ・ハルマゲドンは現れ、スペースデブリ製の地球へ着陸を試みた。
そしてこれも予言どおり、「グェーッ!」とマヌケな声をあげて転倒した。そのままぐるぐると転がり、再び宇宙の彼方へ消えていった。
俺は地球を救った英雄として讃えられ、一躍時の人となった。
さらにツバメにスカウトされ、宇宙災害対策本部のエージェントになった。
コードネームは「アホウドリ・ハンター」。普段は事務作業ばかりだけど、再びアホウドリ・ハルマゲドンが地球へ現れたときに備えて、いつでも寝られる準備はできてる。
🐏
男は目を覚ました。晴れやかな笑顔で、ヘッドギアを外す。
「今日もいい夢見れたなー。さすが、ドリームメイカー」
男の願望は「寝るだけで地球の破壊を阻止し、世界の英雄になること」だった。
〈了〉
恐怖の大王〈アホウドリ・ハルマゲドン〉 緋色 刹那 @kodiacbear
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます