三題噺(赤いスカーフ × 小判 × ゲーム)

まろ

一話完結

 空に茜がさしてきた。最近は夕暮れの訪れが早くなり秋を感じる。オレはこの物悲しい雰囲気が好きではない。これが向こう半年もの続くかとおもうとうんざりだ。ぱっと咲く桜の季節まで時間跳躍できないものかと、くだらないことを考えているうちに時刻は16時半になろうとしていた。そろそろターゲットが現れる時間だ。

 オレはおとり捜査中の刑事だ。事前の捜査でわかっている情報はターゲットは白いアレの売人で性別は女性とのこと。特徴は『赤いスカーフ』を身に着けているらしい。

 ほどなくして予定通り赤いスカーフの女が現れたのだが……一人、二人、三人と続々と駅前に向かってくる。これはどういうことだ!? やってきたのは胸元に赤いスカーフをぶらさげた部活帰りのセーラー服の女子高生の大群だった。

 まさか女子高生がターゲット? いや犯罪も低年齢化しているからありえない話でもないが、この中からみつけろだと? こんな無理な『ゲーム』はないと諦めかけた瞬間、いとも容易くに見つかった。オレはアタッシュケースを片手に接触を試みた。

「バイヤーか?」

「ょ<ゐ⊃レナʖˋれナニね(よくみつけられたね)」

 そこにいたのは三十路手前の平成の女子高生だった。見つけられたもなにもオマエ浮き上がっちゃってるから。しかもギャル文字って喋ってんじゃねーよ……。

 ゲンコツの一発でも喰らわせようか、あるいはもうなんらかの罪で逮捕しちゃってもいいかんじゃないかとさえおもったがコイツの後ろには巨大な組織がある。コイツの逮捕を皮切りに組織を壊滅させる作戦だ。これまでの苦労を水の泡にしたくない。

「ギャル文字とかよくわからないから普通に話してくれないかな?」

「もぅぉ兄、ナω、ιょぅカゞナょレヽナょぁ(もうお兄さん、しょうがないなあ)」

「お願いします」

 どう見てもオマエのほうが年上だろーが! だが、かりにも取引相手だ。ここで決裂はまずいとオレは女を立ててやった。すると女はなんだか調子に乗った顔をしながらロータリー脇に停めてあった車に向かうとオレにキーを預けた。

「運転して。免許は18歳からだよね? ワタシ、免許持ってないの。17歳だから。ワタシ17歳だから」

 永遠の17歳……オレは奥歯を噛みしめて我慢する。後部座席にアタッシュケースを置いてからオレは運転席に座った。そして指示された通りに車を走らせる。

「ケースの中身はちゃんと入ってるんでしょうね?」

「もちろんだ。山吹色したお宝がはいっている」

「山吹色のお宝だなんてまるで時代劇みたいじゃない。『小判』が詰まってるってことよね?」

「着いたら見せるよ」

 女はアタッシュケースの中身――お金があるか――を気にしたが、実際に取引をするわけじゃない。中には小判はもちろん金の延べ棒も札束も入っていない。証拠が見つかった時点で逮捕だ。ただ山吹色のお宝がはいっているのは本当である。

「そこで停まって」

 女に言われるがままに走ること十五分足らずで着いたのは港湾地区にある倉庫だった。いかにもの取引場所だ。

「ここにアレがあるんだな?」

「そうよ」

 車から降りて言うと女は倉庫の扉を解錠してガラッと開けるとそこには茶色い袋が奥まで山積みにされていた。よし、これで物的証拠は押さえた。

「次はあなたの番よ」

 オレは後部座席から降ろしたアタッシュケースを開ける。そして――

「ほら、山吹色のお宝だ」

 ――オレの宝ともいえる警察手帳をぱっと開き山吹色に輝く桜の代紋を見せつけた。

「ちょっと待って、ちょっと待ってお兄さん。警察手帳ってなんですの?」

「説明しろと言われましても、ってオレは刑事だ」

「あなた警察だったの!? 激おこぷんぷん丸!」

「証拠は揃った。オマエを逮捕する」

「ごめんなさい。ごめんなさい。謝りますからごめんなさい。嘘ついてすみませんでした。本当は27歳です。謝ったから許してください!」

 そこじゃねーよ! それとオレも釣られたがちょいちょい10年前くらいの流行りを入れてくんなよ! 8.6秒バズーカーやってる場合じゃないわ!

「じゃあなんなのよ?」

「これだっ」

 オレがコイツに喰らわそうとしていたゲンコツをあらためて握りしめ茶色の袋にを突き立てると中から白い粒がこぼれ落ちた。それはお米――白米――だった。

「あーね」

「“あーね”じゃないんだよ。これ転売目的だろ? 日本人の主食たるお米を買い占めて品薄になったところで売り捌くとは極悪非道の行いだ。日本人の心、大切なお米をマネーゲームのように利用しやがって……。しかしこれでゲームオーバーだ。ここにある量は軽く20トンは超える。よって『米穀の出荷又は販売の事業の届け出違反』で逮捕する」

「そ、そんな……」

 女は泣き崩れてその場に座りこんだ。

「どうしてこんなことしたんだ? 転売するなら他にもあっただろうに」

「ワ、ワタシは……パン派だから。ほんの出来心だったの。ただiPodが欲しかっただけなの……」

 もう売ってないんだよなあ。

「くしゅんっ」

「これでも掛けるか?」

 不意に冷えた風が吹きはじめて女はくしゃみをした。オレはコートを脱いで女の肩にかけてやった。

「ありがとう。これ、あったかい――――んだから~」

「さっさと立て。行くぞ」

 無理やりクマムシのネタを捻りこんできた女を無視して立ちあがらせると手錠をはめた。

「ねえ、刑事さんワタシの罪は重いのかしら?」

「さあね。それは裁判所が決めることだ」

「ワタシ、そんなに重くないとおもうのよね」

「どうしてだ?」

「だって少年法が適用されるでしょ? あっ違った。少女法かな?」

 少女法なんてねーし、少年法も適用されねーよ! もうオマエ一生刑務所に入ってろ! 人生のゲームオーバーだよ!!



 おしまい

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三題噺(赤いスカーフ × 小判 × ゲーム) まろ @nekomaro2222

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