わたしの夢をあなたに聞いてほしい

へのぽん

お昼のひととき

「あの夢を見たのは、これで9回目だった。」


 昼の休み時間、弁当の匂いが充満する教室の窓際にもたれていた。隣で弁当を食べ終えた彼女が真顔を近づけて、暗く話しかけてきた。


「9回目だった、まる」

「夜中に蕎麦でも食うたんか」

「今何刻だい?九つです。とぉ、十一、十二、十三、十四、十五、十六。違うわ」


 彼女はどんな夢なのか聞いてほしいようなのだが、人の夢ほど聞いていてつまらないものはないし、ましてや幼稚園から高校まで腐れ縁の彼女の話などまともに聞きたくもない。

 絶対に聞かない。

 弁当箱を片付けた。

 GWの前、うららかな日。


「いつも卵焼きとウィンナーやん。もっと野菜とか食べんといかんのやないかな」


「梅干し入れとる」

「緑黄色野菜とかさ」

「たかだか弁当で野菜食うても変わらん。おまえこそ小さい弁当で足るんか」

「足る。わたしは今、食欲ないねん」


 彼女はセーラー服の下の腹をさすりながらわざとらしい暗い表情をしてみせた。


「おぬしの悩み、聞こうではないか」

「人の不幸は聞くんやな」

「話してみ」


 僕は鞄から緑黄色野菜の代わりに紙パックの野菜ジュースを出した。これをごはんにかければ食欲がないときでもお茶漬けのようにサラサラと食べられるのではないかと提案した。


「生ぬるい野菜ジュースは罰ゲームやん」

「毎日毎日飽きずに、よその教室に来て弁当食べてたら馴染んでくるもんやな」


 はじめはなぜ別のクラスの子が入ってきてるの?という顔をしていたが、すぐに誰も何とも思わないで馴染んでいた。しかも他人の席に我が物顔で陣取るくらいの強心臓だ。


「で、6月は修学旅行やん?」


 伝統のセーラー服と詰襟の学ランの西高の修学旅行は昔から北九州である。


「行きは新幹線で帰りは長崎から飛行機」

「飛行機て何で飛ぶかわかるか?」

「あんたはわたしの話を聞く気あるのか。揚力で飛ぶんや。翼の上下の風流の差」

「さすが理系の答えや。文系の俺からしたらそんな考えは疑えやで。理系の常識を疑わずに妄信的に信仰的に信じ込んでるのはあかん」

「それなら文系の話を聞いたるわ」

「信じる力かな。これは飛ぶんやとパイロットや乗客が信じてるから飛ぶねん」

 誰かが疑うときに墜落する。船も浮かぶと信じてるから浮かんでいる。


「んな考えなら、飛び降りてもいけるやん。みんなで信じたるから窓から飛んでみ」

「……で、しつこい夢の内容は何やねん」

「9回ともあんたはわたしに告白していた」


 おわり


 おわり

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