(二十三)真夜中、父も来た

 また気付いたら、こんな時間になってしまった。そりゃ腹も減るわけだ。

 と、いうわけで……俺は行き付けの中華飯店で食事をすることにした。


「どうも」

「いらっしゃ……おおっ、ひーちゃん!」


 ガラガラ戸を開けた俺を、その店の店長が笑顔で迎えてくれた。24時間営業とのことだが、今は空いている。


「俺1人っす」

「はいよ! カウンター席どうぞ~」


 さて、何食うかな……。


「はい、どうぞ~」

「あざっす」


 かわいいギャルの子が、おしぼりとお冷やを持ってきてくれた。俺がおしぼりを広げて「あ~気持ちいぃ~」と顔を吹いていると「それは良かったですねー」と笑ってくれた。


「そうそう。今日、お龍が手伝いに来てくれたんですよ~」

「あー……」


 そういえば……今日は道場うち、午後は休みだったか。


「お龍……めっちゃ頑張ってくれていて、いつも本当に助かっています。ありがとうございます」


 あいつ……。


「いやいや、こちらこそ……。いつもセガレが世話になっちまって、悪いねぇ」

「それでは……ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください」

「はーい」


 お姉ちゃんが去り、俺はテーブルに置いてあるメニューを見た。すると、


「……龍治は今日、餃子定食にしていたっけな~」


 わざわざ店長が、あいつの食べたものを報告してきた……楽しそうに。


「へー、そっすか。あいつ、ここで食ったんすね夕飯。お世話さんです」

「ああ。いつも通り、ご飯は大盛りで……しっかりおかわりしていたぞ。いやぁ~毎回、龍治の食べっぷりには感服しちまうよ。父ちゃんに似て、よく食べるんだなーって」

「まあ、そうっすねー」

「何だよ~。そんな適当に、興味なさそうに……ハッハッハッ」


 ふーん……。

 あいつ、餃子定食を選んだのか。

 ……食べたくなってきたな。


「すみませーん」

「はぁ~い」


 食べるものが決まったので、俺はお姉ちゃんを呼んだ。




「はい、どうぞ~」

「あざっす」


 しばらくして、お姉ちゃんにより注文の品が席に運ばれてきた。その様子を見て、また店長は笑っている。


「やっぱり親子だな~。いっぱい食うねぇ」

「そっすか?」

「まあ龍治は今日、いつもより少なめだったけどね。働いている身だったってことで、控えめにしたんだよ。おかわりは、しっかりしていたけどさ!」

「へー」


 俺が頼んだのは……がんもどきの中華煮、餃子定食ご飯大盛り、たまトマ(中国では定番の、卵とトマトの炒め物。あっちでは西紅柿炒鶏蛋シーホンシーチャオジーダンという名前で呼ばれている)そしてマンゴープリンだ。本当は麻婆豆腐も頼みたかったが……色々あって、やめておいた。


「いただきまーす」


 さーて、きちんと完食できるかな……なんて思っていた俺だが。


「いやぁ~……息子と同じく、すごい食べっぷりだ!」

「ごちそうさまでーす」


 数分後、俺の目の前に出された料理の皿は、みんな空っぽになっていた。さすが俺。爪楊枝シーシーしながら、その皿の数々を眺めて自分に酔っている。


「これはサービスです。今、他のお客様もいませんし。お龍に頑張ってもらったので……」

「おっ、あざす」


 食後の俺に、お姉ちゃんがオレンジジュースを出してくれた。俺がズズッと啜り出したところで、店長が口を開く。


「……で、最近どうよ?」

「うーん……」


 正直、答えられるような結果は残していない。今日だって座りっぱなしの時間が長かったのに、ろくな収穫がなかった。


「もう龍治に……はっきり話したら、良いんじゃないかい?」

「いや。あいつは今……九頭見道場の次期師範として、カンフーに集中するべきです。あいつにとって今は、そういう期間なんですよ。格闘家として指導者として、そして人間として……。あいつが成長する時間を、俺は与えているつもりでもあります」

「でもなぁ、ひーちゃん。我々は、ひーちゃんのことも心配で……」

「俺は大丈夫っすよ。パチンコとかスロットとか麻雀とか……見つけた今の趣味を、まあまあ楽しんでいるし。俺、結構センスあると思うんすよねー。ギャンブルの。こりゃあ着々と運を極めていますね、はい」


 俺がベラベラ語ると、店長が数秒間だけ黙った。そして再び、店長の口が開き……。


「まあ確かに……龍治は、ひーちゃんたちの息子だもんな。子育てに関して、我々が口うるさくする筋合いはねぇよ。でも……決して無理はしないでくれ。な?」

「はい、しません。お気遣い、ありがとうございます」


 結構話したからか、俺はグイーッとオレンジジュースを飲み干してしまった。龍治の奴め……こんなにも父ちゃんに語らせやがって。もっと、ゆっくりじっくり食後のオレンジジュースを堪能したかったのによ……ケッ。


「あと龍治に会ってやれよ。最近、話をしていないんじゃないか?」

「あー……。あいつ、俺と話したくないと思います。嫌いですよ、こんな親父のことなんて」

「そうかな~? 淋しがっていると思うぞ?」

「まっ、お互い忙しいのでね……。とりあえず龍治とのコミュニケーションは、しばらく美華に任せます」

「やれやれ……。しょうがねぇなぁ、ハハッ」


 まさか食休みに、こんなにも息子の話をすることになるとはな……。食事中ではなくて良かったけど。そんな話、食べながらしていたら絶対に味がしない。


「んじゃ……そろそろ、お会計を」

「はーい」


 これまで、ずっと大人しく店長と俺の話を聞いていたギャルのお姉ちゃんが、甘ったるい声を出してレジへと向かっていった。

 それにしても……この子マジで、かわいいよな。龍治の嫁になってくんねぇかな……無理か。

 そんなセクハラみたいなことを考えられているとは露知らず、お姉ちゃんは会計をしてくれた。


「ごっそさんでーす」

「ありがとうございました~」


 俺は飴を貰って、お気に入りの店を出た。早速飴を舐めた。餃子を食べた後の俺を気遣ってくれたのか、りんご味だった。




「……お龍にはっきりと言うべきなのは、私たちの方じゃないの?」

「いや、まだだな。とにかく引き続き、見守っていこう」

「……うん……」

「本当に龍治のこと、好きだよな~。まあ、みんな同じだけどさ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

花咲龍昇 橙こあら @unm46

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画