女神さまには勝てない
・みすみ・
女神さまには勝てない
わたしは、知ってる。
わたしはシュウ君の一番にはなれない。
シュウ君には運命の女神さまがいる。
その人が笑うと花が咲く。もちろん、おとぎ話じゃあるまいし、
手は、小鳥のように小さくてあたたかく、マシュマロみたいにやわらかくて白い。そして、いい香りがする。
シュウ君はガチ
わたしは、彼が、どのように女神さまと出会い、いかに女神さまに
シュウ君が女神さまに出会ったのは、わたしたちが中学二年生の春、彼の両親が
明るいようで切ないことばを、清らかな声で歌い上げる女神さま。きゃしゃな体が圧倒的なパフォーマンス力で動く。
シュウ君がファンクラブに入り、会員しか見られない配信を熱心に追いかけ始めたのは、中学二年生の冬、母親が家を出て行ったころ。そのころ、シュウ君は、学校に来たり来なかったり、来ても遅刻だったり、保健室で寝ていたりした。
近所に住む幼なじみのわたしは、しょっちゅう、休みがちな彼への連絡係を買って出ていた。
義務感からでも、同情心からでもなかった。
ただ、ほうっておけなかった。わたしの勝手な
「昨日、夜中まで配信見てたからさ……」
中学校からの連絡を届けるわたしに、自宅の玄関先で、シュウ君は、洗ったのかどうなのかもさだかではないぼうっとした顔で、もそもそと
わたしは、それを、ふんふんとうなずきながら聞く。
同じようなことが
女神さまが、いつだかの配信で、
「みんなの学校生活も教えてね」
と、軽く言ったからだった。
シュウ君は
女神さまのお
自然と、わたしたちは、よくいっしょにいるようになった。
そして、二年生に上がって、クラスが分かれた現在でも、その関係は続いている。
シュウ君は、オタク特有のちょっと早口で、女神さまのすばらしさをわたしに語る。わたしはうなずきながら聞く。
それは、移動教室に向かう途中の
シュウ君のはずむ声を聞くと、わたしは、廊下の
シュウ君の
「まぶしいね」
と言って、わたしは立ち上がり、窓にカーテンを引く。
シュウ君は、よく笑うようになった。
そういえば、 こんなふうに
くったくのないシュウ君を見ていると、わたしは、体の中がひたひたと優しいもので満たされていくのを感じて、
(女神さま、シュウ君を救ってくれて、ありがとうございます)
と、ひれ
わたしの態度が、いつの間にか女神さまファンのそれになっているせいだろうか、シュウ君に誘われて、今週末には、とうとう二人でライブ参戦だ。
ガチ
それなのに、ほわっとしたファンのわたしを
「え、わたしと行く感じで、いいの?」
と言ったら、シュウ君もびっくりした顔をしていた。
★★★
今日、ぼくは、ぼくの運命の女神に会う。
何回かライブにも行ったし、イベントにも参加している。ぼくが女神に会うのは初めてではないのに、今の緊張は、初めて会うとき以上のものがある。
財布は持った。スマホも、もちろん。念入りに髪をセットして、念のために、ほとんど
着ていく服は、一週間前から決めていた。スニーカーに泥はついていない。
駅を出てから会場までの道も、女の子と立ち寄れそうなカフェもチェック済みだ。
あとは、女神の歌声を聴いて、勇気をもらうだけ。
だから、今日こそは、ちゃんと伝えなくちゃ。
女神さま、女神さま、どうか、ぼくに勇気をください。
ぼくの一番好きな人に、大好きだよ、と伝える勇気を。
女神さまには勝てない ・みすみ・ @mi_haru
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます