【短編】銀色の魔法はやさしい世界でできている 『妖精』(KAC20252)

🎩鮎咲亜沙

【短編】銀色の魔法はやさしい世界でできている 『妖精』(KAC20252)

私はミルファ、偉大なる銀の魔女アリシア様に仕える巫女である。


最初は単なるお務めだと思っていたこの魔の森での生活も今や、私自身が望む日常となりつつある。

この森での生活にも慣れてきた私だけど⋯⋯やっぱりここは普通の森ではないと思い知らされる出来事はたまにあるものだ。


これはそんなお話の1つ⋯⋯。




私はアリシア様のお使いで森の中でキノコを探していた。


「えっと⋯⋯この図鑑のこのマダラのいかにも禍々しい色のキノコですか⋯⋯?」


この絶対食べたら死にそうなキノコもアリシア様の手にかかれば素晴らしい傷薬のポーションになるのだから、やはりアリシア様は素晴らしい魔女なのです。


⋯⋯まあたまに変なことをやり始めることもあるけど。

それはまだ私の理解が追い付かないだけで、きっと何かしらの深い理由があるのでしょう。


そんな事を考えながらキノコを探していた時でした。


⋯⋯?

視界の端になにかの光が横切った気がした?


(くす⋯⋯)

(くすくすくす⋯⋯)


なにか子供たちの笑声のようにも聞こえます。


「⋯⋯これはまさか、妖精?」


以前アリシア様に聞いて知っていました。

この世界には魔力が満ちています、その魔力が群体となってある程度の意思を持つ集団となったとき、それを精霊と呼ぶのだと。


しかし精霊は人と話すこともできません。

でも精霊の中でもごくまれに人と意思疎通可能な人格を得るまでに成長した個体が生まれるそうなのです。

そうそれが『妖精』なのです。


「⋯⋯もしかして、あなたが妖精なの?」


(くす⋯⋯くす⋯⋯くす⋯⋯)


⋯⋯話せる相手ではないようですね。

まあ危険もなさそうなのでほっといてキノコを探しましょう。


こうして私は当初の予定通りのキノコ探しを続行しようとしたのですが⋯⋯。


(ねえ⋯⋯あれやってよ)

(あれやってよ⋯⋯)


⋯⋯あれ?

なにやら囁いてきます。


(ほら⋯⋯白い翼を出すやつを⋯⋯)


⋯⋯あれって私の飛翔魔法のこと?

アリシア様がいうにはあの翼は召喚魔法の一種らしく、翼の形をした精霊の召喚なのだそうです。


「⋯⋯まあいいか」


私は言われるままに翼を出そうとしましたが⋯⋯。


(合言葉は『トリの降臨』)


「と⋯⋯トリの降臨?」


そう言ったとたんに私の意思とは関係なく白い翼が生まれました!?


「え? なんで?」


そして気がつくと私の体は大空を舞っていたのです!

今までよりも速く高く!


「ひゃあああああぁ!?」


その後私は必死に制御を取り戻してアリシア様のところまで戻れたのでした。




「それは大変だったねミルファ」


「⋯⋯はい」


「妖精はいたずら好きだからね、ミルファみたいに素質のある子をたぶらかすんだよ」


「そうなのですか?」


「私も小さい頃はよく妖精に魔法の制御を乗っ取られて怖い思いもしたけど⋯⋯今では制御できているからね。 ミルファも大丈夫」


「そうですか⋯⋯。 アリシア様の言うことならできるようになります、私は」


その後私はアリシア様の指導の末に妖精との付き合い方を覚え⋯⋯その力を借りる術を学んだ。

それによって今までよりも速く高く飛べる翼を私は手に入れたのだった。


⋯⋯しかし。




「妖精召喚! トリの降臨!」


⋯⋯この毎回くるっと回ってキメポーズを取らないと力を貸してくれないのが困りものなのです。

⋯⋯⋯⋯誰かに見られると恥ずかしいなあコレ。

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