歳をとる
さくらい まもる
-歳をとる-
私にはお気に入りの場所があった。
黄色い帽子を被ってランドセルを背負っていたころ、毎朝、老夫婦が彼と一緒に、私が登校するのを見送ってくれていた。
「いってらっしゃい」という声に合わせて、小さな体でにっこり笑ってくれる。無口な彼は声を出さないが、どこか可愛らしい表情を向けてくれる。私は一目見て恋に落ちた。彼は人気者で、アイドルのような存在だった。だから毎日彼と会えるのが楽しくて仕方が無かった。
私がセーラー服を着る年齢になると、彼との交流は減った。それでも、出会えた時は嬉しかった。彼は、とても賢くて、私の気持ちを汲み取ってくれる能力が高く、いつだって私の見方でいてくれた。悲しいときには励ましてくれて、嬉しいことがあれば一緒になって喜んでくれた。日に日に、たくましい姿になる彼の姿に私の心は惹かれていった。私は彼のキラキラした瞳とふさふさした体が大好きだった。
ブレザーを着て、電車で通学をする頃には、彼とは会わなくなっていた。私服で通学する頃には老夫婦も見なくなった。聞いたところによると、彼は私よりも歳をとる速度が速いようで、1年間で4~7倍の速さで年齢を重ねるらしい。
あれから時を経て、私はいわゆるキャリアウーマンになっている。私のお気に入りの場所は亡くなり、今は新しい家が建っている。ああそうか。私も歳をとったのだ。極楽の蓮池で出会った時、この恋心を打ち明けてみよう。
歳をとる さくらい まもる @sakurai25
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