妖精の取り分ですか?
太刀山いめ
妖精の取り分
『わたしは将来美味しいバーボンウイスキーになるの』
オーク樽の中で揺蕩う液体。「彼女」は可能性の塊だ。長い熟成の果てに『美味しいバーボンウイスキー』になる事が出来るか…?
それは『彼等』にかかっている?
「今年も良い子が入って来たなぁ」
鷲鼻で蝙蝠の羽。黒衣の男。
「それには賛成」
それに応えるは輪っかを頭に頂き、白い鳩の様な羽を持つ白い衣服の男。
そう。天使と悪魔だ。
「ゆらゆらと気持ち良さそうに寝てるなぁ」
「そうだね。これから僕達に魔法を掛けられる準備OKな感じだ」
「魔法ってのは余り好きじゃないな。ワシは『祝福』と呼びたいね」
「僕はどっちでも良いけど。じゃあ早速始めるかい?」
「そうじゃな」
二人は立派な樽の両脇に立って両手を添えた。
「♫〜♪〜♬〜」
よく鳴るバリトン。天にのぼるソプラノ。二人は長年そうして来た様に息の合った旋律を奏でる。
二人は樽を優しく揺する。
『気持ち良いなぁ〜ふふふ』
バーボンウイスキーの原酒である『彼女』もご機嫌だ。
「良い夢見れてる様だね〜」
そこにもう一人が現れた。
「誰だ?」
「オイラは妖精のエアリエル。はじめまして」
そこには白っぽい影の様な、頼りない小柄な存在があった。
「今忙しいんだ。彼女に夢を見せてる最中でね」
「そうじゃ。ワシ等の仕事じゃ。邪魔するない」
「オイラは空気の妖精なんだ。君達も空気の大切さは知ってるだろう?彼女の官能的な「香り」はオイラの手柄なのさ〜」
「そんな筈は無い。今迄君が居なくても皆香りを纏っていた」
「そうじゃ。お主が居なくとも問題無かった」
「分からないかなぁ。それはオイラが何処にでも居るって証拠だって事。生き物は皆空気が必要だろう?皆に必要とされていたから此処に来る機会が少なかっただけだって…」
白っぽい妖精は樽に触れると「うーん」と唸り、触れた手を二人に差し出した。
「嗅いでごらん?」
二人は妖精の手の匂いに顔を顰めた。
「焦げ臭い!」
「焼け跡の匂いだ!」
「これは必要な…」
「この子には必要無い匂いだ」
「そうだとも。祝福された彼女には不要。不吉な匂い…」
「それ、本気で言ってるのかい?」
「『君、お主』なんて不要だ!」
「そうか。不要か。じゃあこの匂いは必要無いね…そうかそうか…」
白っぽい妖精は少し意地悪く笑うと両手を樽に添えた。
「これで彼女から『この匂い』は取り去ったよ。後はお二人に任せたからね?」
白っぽい妖精「エアリエル」は煙の匂いを纏わせて去っていった。
「一体何がしたかったんだろう?」
「さぁ、素直に『取り分』が欲しいと言えば考えたものを…」
二人はまた旋律を奏でる。
「♫〜♪〜♬〜」
『うーん…うーん』
「彼女ご機嫌斜めだ…」
「どうした事か…」
二人は樽を優しく揺する。揺すり続けた。
数年後。
『さあ、取り分を頂こう』
天使と悪魔は小振りのグラスを持って樽の前に立っていた。
そして樽から『バーボンウイスキー』を汲み取る。
そしてグイッと一気にあおった。
『ゲェー!』
「これは本当にバーボンウイスキーか!?」
「ただのアルコールだ!」
「だから必要だって言ったろう?」
『お、お前は妖精の…』
「やぁ、エアリエルだよ。君達が要らないと言った匂い。あれは本当に必要な物だったんだよ」
エアリエルは話す。
「人間が『ワザと』樽の内側を火で炙ったのさ。それが無いとあの官能的な香りも、美しい緋色の液色にもならない。君達はただのアルコールを揺すり続けてたんだ」
エアリエルは『知らなかった?』と呼び掛ける。
「知らなかった…」
「ワシ等のやっていた事は…無意味?」
「そう。君達は実は天使でも悪魔でもない。天使の取り分とは熟成による酒の蒸発。悪魔の取り分は樽に染み込んでしまう酒の事…自然現象さ」
二人は力無く項垂れてしまった。
そして妖精は二人を嘲笑う様に頭から齧って食べてしまった。
「これが妖精の取り分。二人の役割…貰ったよ」
白っぽい影でしか無かった妖精。そこに黒と白が濃く足され、立派な羽も生えた。
「妖精の成り立ち知ってるかな?」
妖精エアリエルは樽に語り掛ける。
「天界の戦争で神にもルシフェルにも付かなかった…どっち付かずの『成れの果て』…」
樽を揺する。
「此処に居た二人を食らってやっと姿を保つのが精一杯の哀れな存在なのさ…」
樽の中のアルコールが恐れて居るのが伝わる。
樽を揺する。優しく揺する。そして「ふっ」と空気を注ぐ。
「君には二人を食べる『協力』をしてもらったから…特別に『祝福』してあげる」
ケンタッキー州バーボン郡。ある酒蔵。
そこには天使と悪魔が居て、酒の面倒をみてくれる。代わりに彼等にも取り分を。
その中に一樽だけ『妖精の取り分』が含まれている…そう噂が立った。
終わり
妖精の取り分ですか? 太刀山いめ @tachiyamaime
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