【KAC2025】森の迷い子へ、星空のおくりもの

朝凪 SANA(*^^*)

森の迷い子へ、星空のおくりもの



『きらきら きらきら ほしのみち

 ようせいさんの とおりみち


 やさしいこころの ようせいさん

 もりのまよいご みつけたよ


 とくべつなよる ようせいさん

 なみだをながす まよいごに

 きらきらひかる おくりもの


 きらきら きらきら ほしのみち

 ようせいさんの とおりみち


 もりのまよいご みちびくよ』



   *  *



 満月の夜。

 しん、と静かな森では、妖精たちの小さな笑い声だけが響いていた。


『ねぇねぇ! さっきフェリーが、魔法で木の実を燃やそうとしてたんだよ!』

『ぷっ! のフェリーができるわけないのに!』

『そうそう、なんにも出来ないフェリーには一生無理だよ!』


 美しい羽でくるくると飛びながら、クスクス笑う妖精たち。

 そんな妖精たちを遠くから見つめる、緑色の瞳――。


 その正体は、先ほど”出来損ない”と笑われていた妖精 フェリーだった。


『……なんで、何も出来ないんだろう』


 フェリーは綺麗な若草色の瞳から、小さな雫を流した。


 妖精なら、誰でも使えるはずの魔法。

 フェリーだけ魔法が使えず「出来損ない」と呼ばれ、仲間はずれにされている。


『はぁ……』


 羽を動かして、ふわりと空に浮かぶ。

 友達のいないフェリーにとって、空を自由に飛ぶことが唯一の楽しみだ。


 飛ぶスピードを上げながら、木々の間をすり抜ける。


(ああ――。やっぱり楽しいな)


 頬と羽を撫でる、冷たい風が心地よい。

 なにか嫌なことがあったら、こうやって森の澄んだ空気を吸って、感じる。それが一番心が落ち着く。


 目を閉じて、ただただ風を感じていた時。


「――っ」


(……?)


 何かが聞こえた気がして、ぴたり、と一時停止する。

 そして、聞こえた音の方に向かってゆっくり近づいた。


「おかぁさん〜! おとぅさん~! ……ひっく、こわいよぉ……」


 小さな、人間の子どもの声。


(泣いてる。でも――)


 人間に妖精の姿は見えない。

 唯一妖精の姿が見えるのは、妖精が魔法を使ったときだけ。


『……っ』


 フェリーは下唇を噛んで、目を逸らした。


(私は、魔法を使えない出来損ないだから……助けられないや)


 ごめんね、と小さく呟いて、その場を立ち去ろうとした瞬間。


「? ……だぁれ?」


 え? と人間の女の子の方をふり返った。

 すると、涙を拭いて赤くなった顔の女の子と、目があった。


『っ、え?』


 思わず、驚いた声が出た。

 静かに近づいて、本当に自分が見えているのかを確認する。


『――あなた、私が見えるの?』


 警戒けいかいしながら聞いてみると、女の子は小さく首を傾げて「見えるよ?」と答えた。

 そして、突然女の子の瞳がキラキラと輝き出した。


「わたしね、ルルっていうの! おねえちゃんのお名前は?」


『……妖精の、フェリー』


「よーせーさん?」


 女の子が「なにそれ?」と不思議そうな顔をした。


(良かった、さっきみたいに泣いてない)


 フェリーはそれを見て小さく、ほっと安堵あんどの息をついた。

 そう言えば、この子――ルルは、家族とはぐれたのだろうか。


(……なら、森の外に返してあげなくちゃ)


 でも、と心のなかで続ける。


(この子の……ルルの笑顔が、見てみたい)


 出来損ないの自分と、はじめて目を見て話してくれたルル。



 一度でいい。ルルの笑顔を、見てみたい。



『ねぇ、ルル。妖精はね、魔法が使えるの』


「まほう?」


『そう! ルルにある贈り物をしてあげる。おいで!』


 フェリーは笑顔でそう言って、自分の羽を動かした。

 ふわりと飛んで、森の外の方へ向かう。


「ま、まってよ!」


 ルルも走り出して、フェリーを追う。

 フェリーは飛びながら、ルルに見えないようにあるものを取り出した。


 ――それは、この森にだけある”星空の砂”と呼ばれる貴重品だ。


 それを自分の周りにふりかけて、自分の羽で起こした風で巻き上げる。

 すると、フェリーの足元に、小さな星のような光が、数え切れないほど現れた。


「すごいっ! お星さまが道を作ってくれたみたい!」


 ルルが歓喜の声をあげる。

 それを見たフェリーは、くすりと笑みをこぼして飛びながらルルの方を向く。


『じゃあ、ルルにも魔法をかけてあげる!』


 そう言って、フェリーはルルのまわりをくるくると飛び回る。

 すると、ルルの足元にも、光り輝く星の道が現れた。


「うわぁ〜っ! きれい! かわいい!」


『……気に入ってくれた?』


「うんっ!! ありがとう、よーせーさん!」


 ルルが、フェリーに満面の笑みを見せた。

 フェリーもふっと微笑ほほえんで、『こちらこそ』と言う。


 段々森の外へと近づいて、辺りが明るくなってきた。


 そろそろお別れか、と寂しくなったが、ぐっとえてルルを見つめる。



 ありがとう、私と出会ってくれて。

 ありがとう、笑ってくれて。



『バイバイ、ルル。――さようなら』



 少し強い風が吹いて、木々がザワザワと揺れた。

 もう、彼女たちの姿はない。薄暗かった森には、温かな木漏れ日が差していた。



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