小さいおじさん妖精のポイントカード

天雪桃那花(あまゆきもなか)

小さいおじさん妖精のささやかなお楽しみ

 巷でうわさの『小さいおじさん妖精』はな、あんたのすぐそばにいるんやで。


 けっこう近くに住んでまっせ。


 なぜなら、人間の近くにおると良いことがあるんよ。


 かくいうワシも『小さいおじさん妖精』の一人。


 我々『小さいおじさん妖精』は、実は無償で幸せを運んでいるのではおまへん。


 人間にちょっとした幸せをお裾分けすると『小さいおじさん妖精』たちにはご褒美がくるっちゅうわけや。

 誰かに良いことをすると、ポイントカードに幸せ貢献ポイントが貯まります。


 ラッキー妖精のお仕事みたいなもん。



 ひとつゆうておくけどな、純粋に『小さいおじさん妖精』には人間の笑顔がささやかな楽しみ。

 人の笑顔はええもんや。

 そして、ポイントカードでもらうプレゼントもかなりええもんやで。


 ぐふふっ、けっこうスタンプが貯まってきたなあ。



     ◇◆◇



 ワシ、ここ数年は佐藤さんに居候させてもらってます。


 誰がスタンプカードを用意してくれて、誰がスタンプを押印してくれてんのかは『小さいおじさん妖精』同盟のだれにも分からん。


 まあ、あれや、あれやで。神様とか女神様とかなんかごっつ偉いお方がご褒美くれてんやろな。


 なにせ、ポイントカードで交換って言ったら家具やら美味しいグルメが届くんやから、嬉しいかぎりや。


 今日は佐藤さんの長男のタケハルが筆箱を忘れそうやったから、こっそりランドセルに入れてあげたで。

 タケハルはとにかくおっちょこちょいで忘れもんが多いねん。

 ほんま、世話が焼けるわ。

 けんどまあ、ワシはご褒美いただけますさかい、張り切ってお世話してます。


 そうそう佐藤さん家には『妖怪座敷わらし』も一緒に居候しとるんやで。

 ワシにはとうてい重くて運べんようなタケハルの忘れもんも、座敷わらしのやつとの協力プレイで難なくミッションクリアやで。


 座敷わらしにはポイントカードはおまへん。

 でもタダ働きってぇのは申し訳ないやろ?

 ワシ、ポイントでもらったご褒美は、座敷わらしと分けることにしてんねん。


 佐藤さん家は、なかなか居心地がええで。

 ドジっ子がおると、ワシの出番が増えますさかいに。



 こんなワシにも夢がある。

 フランスのパリに行きたい、ああ、あこがれのパリ。

 洗練されたファッション文化に美味しいグルメ、エッフェル塔や凱旋門とかいう素敵な建物もあるっちゅうねん。


 ワシ、ほとんど関西から出たことがないんや。


 パリに行ってみたいなあ。


 昔、旅好きの父ちゃんが言っとった。

「人間と比べたら体が小さいからって小さい世界におさまらんと、どんどん冒険せなあかん」――と。


 父ちゃん譲りの冒険したいという熱い魂を持って生まれたからには、ワシも広い世界に冒険したいんや。


 ワシはポイントを貯めて、パリに行こうと決めた!



     ◇◆◇



 ――数カ月後。


 ワシはとうとうポイントカードにたくさんのポイントを貯め、パリに旅行に来れたんや。

 やったな、めっちゃ偉いで。


 いやー、それもこれもタケハルがおっちょこちょいだったおかげや。

 ありがとう、タケハル。

 あんたは影の功労者や。


 フランスのパリ〜♪

 しっかし、なんて素晴らしい景色やろうか。

 パリは日本とはぜんっぜんちゃうねん。


「ボンジュール」


 日本と言葉がちゃうねん。

 しかも空気からしてちゃう。ここはおっ洒落ーな風が吹いてるって、ほんまほんま。


「座敷わらしのやつにお土産をたくさんうていってやろう」


 ワシは、颯爽と歩く足の長いお洒落なパリっ子たちの間をうまいこと抜けて歩く。

 香ばしいパンの香りがするわ。

 シャンゼリゼ大通りには有名カフェが並び、一流ブランドのお店がたくさん建っているっちゅう。


 あとで、美味しいバゲットサンドとエスプレッソをいただきに行こか。


 ワシはまず、エッフェル塔に行くことにしたんや。

 目指すはパリの有名観光地の踏破だ。


 芸術のパリ、美食グルメのパリ、待ちゆく人々の洗練されたファッション……。


 ああ、ワシ、今パリを満喫しとる。



    ◇◆◇



 夕方になってセーヌ川沿いを歩きながら、今夜の宿三つ星ホテルを目指した。


 ここはパリの妖精たちが営業してるホテル。


「ボンソワール」


「こんばんは。予約した『日本の佐藤さんの小さいおじさん妖精』です」


「おお、遠路はるばる、よう来たな。ワシも日本の小さいおじさん妖精や。ここで長いとこ働いとる」


 ホテルのベルボーイが同じ日本の『小さいおじさん妖精』で、しかも関西出身とは、世間は狭いのう。


「なんや、あんたも関西人妖精か」


「そうや。ああ、あんたの顔を見とったらたこ焼き食べたなってきたわ」


「……そやな、ワシもなんだかタコ焼きかお好み焼きか、粉モンが恋しくなってきてしもた」


 せっかくパリに来たんだから、一年ぐらいいてやろうかと思ったけど。

 ちょっと里心がついてしもうたな。


 座敷わらしにも、タケハルにも会いたくなってきた。


「帰れるところがあって、待ってくれる人がおるってええねえ」


 ベルボーイの小さいおじさん妖精がふと寂しそうに見えた。


「じゃあ、ワシと日本に里帰りしよ? 帰る家が無かったらワシんとこ来たらええ」


「ええんかっ!?」


「もちろんやっ!」


 異国で始めて出来た友達は同じ日本出身の『小さいおじさん妖精』だったが、しばらくパリにおったらワシには新しい友だちがたくさん出来た。


 日本から遠い遠いパリでも、気のいい奴はいっぱいおる。

 住んどる国がちごうても気の合う仲間は出来るもんやなあ。


 これからもワシは世界中を旅して、幸せを運んで。


 良いこといっぱいして、ポイントカードにポイント貯めて、いつかは座敷わらしのやつと一緒に旅行に行くのもええかもしれんなあ。





      おしまい♪

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