あなたは私の、春の妖精

飯田太朗

春の妖精について論じます。

 著作権があるので引用は控えるが、日頃親しくしているMACKちゃんが四年前に書いた『マリオネットインテグレーター』という作品で好きなセリフがある。

 恋慕った人に向けて発せられた言葉で、相手のことを「春の妖精」に例えている。

 素晴らしい表現だと思った。本当にそうだと思った。恋をすると、好きになったその人が春の妖精のように思える。心に潤いの伴った感情が芽生え、その苗木を言葉や態度、行動ですくすく育ててくれる相手のことを、妖精と言わず何と言おう。芽吹は春の象徴である。妖精は人知れず仕事をしていくものだ。いつの間にか生まれた温かくもくすぐったいこの感情を、人知れずに芽吹かせる。このことからも、やはり春の妖精という言葉がふさわしいことが分かる。

 恋という感情を春に例える。陳腐かもしれないがいい表現だ。夏ほどエネルギーに溢れているわけでもなく、秋ほど心悲しくもなく、冬ほど凍てついてもいない。温かくて、嬉しくて、そわそわした気持ちにさせる春こそ恋の代名詞にふさわしい。

 ……とは思うが、夏の燃え盛る恋も、秋のくっつきたくなる恋も、冬の温め合う恋も、それぞれの良さがある。

 もしかしたら、それぞれの季節、それぞれの恋に妖精がいるのかもしれない。

 日本ではあまり知られていないことだが、西欧の妖精はいいことも悪いこともする。フィンランドの妖精で家に取り憑くトントゥという妖精は、きちんと祀れば家に幸福と富をもたらしてくれるそうだが、少しでも祀り方を間違えると家畜も家族も殺してしまう。ブギーマン。子盗り鬼として知られるこの妖精は、どういうわけか様々な地域ではサンタクロースとして扱われている。

 春の妖精にも、そういうところがある。

 行き過ぎた恋は依存になる。冷めた恋は腐った肉のようで醜悪だろう。春の妖精も、トントゥやブギーマンのように正しく扱わないと恐ろしいことになる。

 ここ、カクヨムには中高生も多かろう。僕の読者にそういう人がいるかはさておき、簡単に春の妖精の扱い方を……僕が短い人生の中で学んだとっておきの祀り方を、教えておこうと思う。

 まずはきちんと挨拶をすることだ。神社にお参りする時も、鳥居をくぐる時、それから手を合わせる時、それぞれで一礼する。春の妖精にもそういうのが必要なのである。彼か彼女を見かけたらまず挨拶をしよう。簡単にでいい。「おはよう」「バイバイ」「やっほー」「またね」何でもいい。声をかけるのだ。慣れてきたら様子を伺ってみて。「元気?」「どう?」天気について話してもいい。「暖かいね」「雨で嫌になるね」

 この感触が良ければ次の段階に進める。焦ってはいけない。さっきも話したがこれは芽吹なのだ。成長させようと水や肥料をあげ過ぎると根腐れする。慎重に。丁寧に。

 次は少し話してみよう。挨拶とは異なる。挨拶は短い言葉のやり取りだが、会話はもう少し長い。相手の側に一歩踏み込む。そんな行為だ。

 手軽な会話の仕方として、何かを褒めてみるというのがある。相手の行動、態度。持ち物やセンス、そういったものを簡単に褒めてみるのだ。「簡単に」が大事である。極端に持ち上げられると却って恐縮したり怖く思ったりしてしまう。挨拶の延長線程度に。初めの一言にもう一言添えるイメージで。

 そうして関係が一歩進んだら、また一歩だけ進めてみよう。確認だが、一歩だけである。二歩も三歩も進めてはならない。

 ある程度親交ができたら、感謝してみるというのも手である。願い事が叶ったら神様に礼を言うだろう。それと同じである。

 いつも挨拶してくれること、優しくしてくれること、何でもいい。いつもの挨拶に感謝の言葉を添えてみるのだ。

 気をつけておきたいこととして、妖精が少しでも嫌がったらその行為をやめなければならないというのがある。嫌がらずとも、「これ以上こっちに来ないで」というサインを出してくることがある。これをきちんと受け止めること。妖精への接した方は、こちらが発するのも大事だが受け取ることも大事だ。キャッチボールのように。投げたら、受け取らねばならない。どちらかが投げっぱなしでは、敵意丸出しの雪合戦になってしまう。

 さて、そうして結んだ妖精との関係は、きっと君の財産になる。相手と自分という二つの要因が絡むことだ。必ずしもハッピーエンドを迎えるとは限らない。でも、この丁寧な手続きは様々な場面で活きる。決して無駄にはならない。例え芽吹が枯れてしまったとしても、それは大地の肥やしになりまた次の芽吹へと繋がる。大事なのは、大地となる自分のことを大切にすることだ。どんなものも土から生まれるのだ。土さえ大丈夫なら、その上に育つものもきっと大丈夫。

「あなたは私の、春の妖精」

 あなたにそう言える存在がいるのなら。それはとても幸運なことである。この幸せを逃さずに。そのときめきを大切に。

 あなたに春が来ることを、今年も祈っています。

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