後編

 未だにバクバク鳴る胸を押さえ、ぱんつをめくったまま、逡巡する。


 気品ある顔立ちのイケメンだろうと変態は変態。イケメンだからって何しても許される訳じゃない。ルッキズムよくない。


 指でつんつん突き、意識を呼び覚まそうとして、やめる。形のよい細いマユ、髪と同じ色のまつ毛に縁取られたまぶたがぴくぴく、動いている。

 わざわざ起こさなくても、ちょっと待てば自力で目覚ましてくれそう。変態妖精に触らなくてホッとしたのは内緒。


『……あれ?ボクは』

「おはよう。ぱんつの妖精さん」

『?!』


 わたしはここぞとばかりに、ぱんつ妖精からぱんつを取り払った。

 イケメンはびっくりした顔もイケメンだなとか感心しつつ、冷静にぱんつ妖精と向き合う。


「早速だけど、なんでぱんつばっかり持っていくの。二十枚近く持っていってるでしょ。なんで?」

『えっと……』

「ねえ、なんで?気持ち悪いし、地味に困る」

『あの……』


 言い訳なんてしようものなら、とことん詰めてやる。

 目を三角にしたわたしに、ぱんつ妖精はおどおどと見上げてくる。変態なのにあざといな。


『ごめんなさい。冬がきてあんまりにも寒くて……。布団代わりにちょうどよかったから』

「布団代わり」

『こうやって包まるとあったかいんですよ!』


 ぱんつ妖精はぱんつの端を両手で持ち、くるくると自ら簀子巻き姿になった。

 リアルロールキャベツ男子か。あ、この場合、ぱんつロール男子か。


 ぱんつ簀子巻きになりながら、実にキラキラと良い笑顔の金髪イケメン妖精。どう反応しろと。

 すっかり怒る気力も削がれてしまった。


「う、うん……、そっか、あったかかったの……」

『はい!そうなんです!』

「で、でもさ、一枚あればよくない?二十枚も持ってかなくても」

『雪降った時とか特に寒い日は五、六枚重ねて包まらないと寒くて寒くて。実はボク末端冷え性が酷くて』

「それにしたって十枚あれば足りるんじゃ」

『洗いがえが欲しいとか、色違い集めたくなったりとかで、つい……』


 つい、じゃないて。


「……うん、そっか。……言いたいことありすぎて何をどこから言えばいいか、うん……」


 左右のこめかみをぐりぐり。

 いろんな言葉が次から次へと、頭にも胸にも湧いてきて、どれを声に乗せればいいのやら。


「あ、あのさ。あったかそうにしてご満悦なところ、一つだけいい?」

『はい?』

「やらしい理由は一切ないことはわかった。よくわかった、んだけどさ……。それ、あくまでぱんつだよ?ぱんつに全身包んでるって、冷静に考えたらおかしいよね?!」

『なんでですか?』

「いや、なんでって」

『これ、おしゃれな帽子ですよね?ぱんつって名前は初めて知りましたけど』


 どうしよう。

 この妖精、頭の中まで妖精すぎる。


『でも、二十枚近く勝手に持っていったことは本当すみませんでした。あったかくなってきたし、近々全部洗ってお返しします』

「いや、返さなくてもいいよ……、逆に返されても困るし」


 イケメン妖精が一冬使い倒したぱんつ(ってすっごい語弊)穿く勇気、わたしにはないって……。


『でも』

「いいからいいから!その代わり、もう二度と持ってかないで欲しいかな」


 細かいことを考えるのが面倒くさくなり、首に巻いていたストールをするっと外す。


「ぱんつ重ね着するよりこっちの方があったかいでしょ。来年からはこれ使ったら」

『え、い、いいんですか?!』

「いいよいいよ、この際ね。ぱんついっぱい持ってかれるよりはいくらかマシ」


 ぱんつ簀子巻から抜け出たイケメン妖精へと、わたしは外したストールをふわり、かけてあげた。

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【KAC202503】ぱんつの妖精 青月クロエ @seigetsu_chloe

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