となりの妖精さんは、飴玉を放って寄越すツンデレさん

弥生 知枝

飴玉こっつん🍬


 私が困っていると、妖精さんが現れる。




 最初に妖精さんが現れたのは、私がまだ幼稚園児のとき。

 うちの庭で一生懸命に育てていたチューリップが咲いたのに、迷い込んだ野良犬が、その花々を一つ残らず折ってしまったときだった。


「ぐすっ、ぐすん」


 こつん


 花壇を前にうずくまって泣いていた私の頭に――突然、可愛いピンクの包み紙でくるまれた飴玉が降って来た。


 それを皮切りに、妖精さんは度々私のところに現れるようになった。小さなうちは、家で、私の部屋で、お隣のお家で、近所の公園で……いろんなところで頻繁に妖精さんは現れた。


 転んだとき、喧嘩したとき、涙が出てくると決まって妖精さんは飴玉をこつりとぶつけて来た。アイスクリームを落として、洋服にべったりと付けてしまったときは、ポケットティッシュが飛んできてちょっぴり驚いたっけ。


 成長するに従って、妖精さんの助け方も変わっていった。


 小学生のときは、下校時間になって急に降り出した雨に困っていると、私の下足箱に紺色の折り畳み傘が入れられていた。


 中学生になった今では、妖精さんが助けてくれる場所と頻度はぐっと減ってしまった。それでも何度も助けてくれたことに私はちゃんと気付いている。

 体育の授業のバスケットボールの試合で、私がシュートを失敗してチームメイトから少し冷たい視線を感じたとき。妖精さんが、一際大きな声を出して雰囲気を変えてくれたこととか。



 それから、文化祭の準備で帰りが遅くなった今日みたいな日。


 どこからともなく暗い道を照らしてくれる自転車が現れた。歩く私の速度に合わせて、ゆるゆると先を進む自転車は、家を目前にしてピタリと止まり、私が追い付いたところで飴玉が飛んで来た。


「昨日庭でスケッチしてたら、飴玉が飛んで来たわ」

「頑張ってる結愛ゆあに、妖精からのご褒美だろ?」


 同じ学校、学年の制服を着た幼馴染の友進ゆうしんが、視線も合わせず、ぶっきら棒に言う。


「いつまで妖精さんなのよ」

「正体を知ろうとしたら、妖精は現れなくなるんだよ。ちっさい時に教えたろ?」


 微かに頬を染めた彼は、さっさと隣の家に入って行く。





 これから先、大人になっても妖精に現れて欲しいって――今度、友進ゆうしんにそう告げてみようかな。

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となりの妖精さんは、飴玉を放って寄越すツンデレさん 弥生 知枝 @YayoiChie

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