コント「こんな結婚式場は嫌だ」
薮坂
コント「結婚式場見学会」
「いやぁ、幸せだなぁ。彼女へのプロポーズもうまくいって、ついに結婚が決まったぞ! 彼女が憧れてる幸せな結婚式を実現させるため、ひと足先に式場をいくつか見ておこう。今日はここか。いい雰囲気だな、よし入ってみよう!」
ガチャ、ウィィィン。
「ようこそ『
「めちゃくちゃクラブみたいな名前の結婚式場だな!」
「結婚式に幸せを運んでくる妖精とYo,Say!のダブルミーニングです」
「いやわかるんだけどさ。まぁいいや、先日この結婚式場の見学予約をした者です」
「お待ちしておりました、ご予約の高橋様ですね?」
「いえ、違いますね」
「それは大変失礼いたしました。それでは鈴木様?」
「鈴木でもないです」
「……え、まさかの佐藤様ですか? オッズ10倍の?」
「佐藤だけどオッズ10倍って何よ! なんの賭けの対象にされてんの俺!」
「あ、いえ。すみませんこっちの話です」
「こっちの話でもあるよ! あんたが俺の名前出したんだからな! 大丈夫かよこの式場、ちゃんと見学予約できてんのか?」
「それはもちろんです。ただ……」
「ただ、なんだよ?」
「式場見学は御結婚が決まった方向けですので、これから結婚相手を探す方対象ではございませんが……、大丈夫ですか? アタマの方は」
「アタマは大丈夫だし結婚相手もいるよ! この前プロポーズしてOKもらったんだよ! 失礼だなマジで!」
「それはその、大変申し上げにくいのですが現実に存在する人ですか? あなたの頭の中とかモニタの向こう側とかでなく?」
「妄想じゃねぇし二次元でもねぇよ! ちゃんと存在してるわ! もうすぐ結婚する彼女がな!」
「……つまり下見ということで?」
「あぁそうだよ、雰囲気掴んでおきたいんだ。どんな設備があってどんな演出ができるのか知りたいだろ? 彼女は幸せな結婚式に憧れてるんだ」
「左様でございますか。しかし申し訳ありません、お引き取りを。当式場は、人様の幸せな結婚式に乱入するような輩を野放しにする訳にはいかないのです」
「だから俺だって俺! 結婚するのは俺!」
「ちょっと待ったーッ! って花婿から花嫁を
「俺が花婿だよ! しかし懐かしのシチュエーションだなそれ、誰がわかるんだよ!」
「では攫われる側ですか? それを阻止しようということで? 館内を下見して防衛策を練ると?」
「なんで彼女は攫われる前提なんだよピーチ姫か! あぁもう話通じねぇな! あんたじゃ話になんねぇ、ウエを呼んでこい、ウエを!」
「申し遅れました。私が
「ややこしい苗字だなぁ! いやホントお願い、そろそろマジわかって? 俺、今度結婚すんの。彼女は幸せな結婚式がしたいの。だから式場見学に来たの。わかる?」
「……あぁ! そういうことですか!」
「理解遅っせぇな! でもわかってくれて嬉しいよマジで!」
「これは大変失礼いたしました。ではまず、こちらの紙に新郎新婦のお名前をご記入ください。次にお日にちとお時間をお決めしたいのですが、あいにく大安などの吉日は予約が埋まっておりまして」
「あぁ、人気の式場だもんね。めちゃくちゃ雰囲気いいし、キレイだし仕方ないかぁ。ちなみに最短だといつですか?」
「そうですね最短ですと……、今から2時間後です。それでよろしいですか?」
「よろしいワケあるか! 無理だろどう考えても! 彼女今日は仕事だよ! だから来てねぇんだよ!」
「ご安心を。コロナ禍以降、当式場ではリモート環境に力を入れておりまして。新郎新婦はもちろん、ゲストもリモート列席可能ですよ。新しい形の結婚式はいかがですか?」
「斬新すぎるから! それでどうやって式挙げるつもりだよ!」
「当式場のスタッフが、新郎新婦の顔が映し出されたタブレットを持って式に臨みます。誓いのキスは、こう、タブレット同士をくっつけて」
「いらねぇからマジで! 画面真っ暗になるだろ! とにかくリモートは却下だよ却下!」
「左様ですか。記録に残る式だと思うのですが」
「残ってほしいのは記憶の方かな! だいたいリモートってそれ料理とかどうすんだよ、パンフレットには『凄腕シェフが作るコース料理をご賞味あれ』とか書いてあんぞ!」
「凄腕シェフの料理をモニタ越しに眺めながら、自前の料理を各自食べていただく形式ですね」
「なに形式だよ意味ねーよそれ! 何が悲しくて美味しそうな料理見ながら牛丼食うんだよ! いや例に出した牛丼に罪はないけどさ!」
「ではオフ式をご希望、ということですね」
「オフ式なんて聞いたことねぇよ。オフ会みてぇに言うな、結婚式はオフラインが基本だよ!」
「でも今、令和ですよ?」
「時代についてこれてない感じで言うのやめてくんない? とにかくさ、式挙げるなら現地でやるから式場見せてよ。まずチャペルを見せてくれ!」
「かしこまりました。こちらが当式場が誇るシャベルです」
「それスコップだわ! しかも剣先スコップじゃん! 堅い土掘りやすいヤツな!」
「はい、自慢の一品です」
「もう少し違うヤツ自慢したほうがいいな! あのね、シャベルじゃなくてチャペルだよ! 教会的なとこだ、ほらあの神父様がいるところ!」
「あぁ、チャペルですか。すみません、お客様の発音があまりにもアレだったもので」
「まずは自分の耳を疑ってみようか? で、チャペルはどこ?」
「はい、こちらです」
「……おぉ、これは荘厳だ! 大きなステンドグラスから陽の光が入って、妖精がいるみたいな神秘さがある!」
「お気に召していただけて光栄です」
「さらには小鳥たちが楽しそうに歌ってるよ、まさにトリの降臨だな! あのトリ達はこのチャペルで飼ってるの? 凄い演出だなぁ」
「いえ、勝手に住み着いています」
「じゃあ見てねーで追い払えよ! なに餌やってんだお前のせいじゃねーか! よく見たらパイプオルガンがトリのフンまみれだろ!」
「あぁ、あれは大丈夫です。パイポオルガンですので」
「パイポオルガンって何⁉︎」
「あの管は全部、使用済みの禁煙パイポを束ねたものなので替えが効くのです。私、なかなかタバコをやめられなかったクチでして。パイポ代の方が高くつきました」
「だろうな! あんなに数あるんだからな! 今すぐちゃんとしたのに変えろよマジで、チャペル自体は素敵なんだからさ!」
「ありがとうございます。ではプランの説明に入らせていただきます。その前に少し質問がありますのでよろしいですか?」
「いや絶対この式場にはしないけどね? まぁいいや、どんな質問?」
「当式場は初めてのご利用でよろしいですか? リピーター割引があるので一応確認を」
「初婚だよ俺は! 確かに2回目する人もいるし、俺の知り合い2回式挙げた人が2人もいるけどさ。でもさすがに同じ式場ではなかったな。あ、これ実話ね! それだけでご祝儀12万だから!」
「左様ですか。同じ式場の方がリーズナブルですし勝手もわかると思うのですが」
「そこは思うだけにしとこうな!」
「では万一お客様がそうなった場合の備えとして、サブスク加入はいかがでしょう? 一年間有効で、何度でも式を挙げられますよ」
「うわぁ魅力的なプランだなぁ、って言うとでも思ったか! 俺が誓うのは永遠の愛だよ!」
「……おや? ちょっと待ってください。今調べてわかったのですが、お客様の奥様になられる方、当式場のリピーター割引対象者ですね」
「えっ、嘘だろ⁉︎ 俺の永遠の愛はどこ行ったんだよ⁉︎」
【終】
コント「こんな結婚式場は嫌だ」 薮坂 @yabusaka
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