コント「こんなエステサロンは嫌だ」

薮坂

コント「あこがれのモテ生活」


「ついに決意したぞ……! あこがれのモテ生活実現のため、俺はこの『ダンディズムエステサロン』に入る! 駅前で割引チケット配ってた時にピンと来たんだよな。よし、とりあえず入ってみるか!」


 ガチャ、ウィィィン。


「ようこそいらっしゃいました、ダンディズムエステサロンへ。モテに迷える子豚をモテの世界へご案内いたしましょう」


「いきなりハズレの予感だよ! 迷ってるのは子羊な子羊! 子豚って俺そんな太ってないからな!」


「すみません。少し花粉症気味でして。ヘブヒッ、ヘブヒッ!」


「花粉症関係ねぇよ! 豚に寄せたクシャミするなよマジで失礼だな! ほんと大丈夫か、このエステサロン」


「ダンディズムエステサロンは、モテの総合案内と言っても過言ではありません。マナーにファッション、言葉遣いに毛繕いまで手厚くサポートしますよ」


「毛は繕わなくていいんだよ、毛は! それ動物とかだからね?」


「ところでお客様は、ご予約の方でしょうか?」


「あぁ、昨日電話したんですよ。駅前で割引チケット配ってたでしょ? 一度体験してみようかなって」


「では簡単に、当サロンのコンセプトをお伝え致しましょう。先程も申しました通り、当サロンはモテの総合案内。ただのエステサロンではありません。様々なモテるテクニック──、つまり『モテク』を授け、迷える子羊たちをモテの世界に導いております」


「モテク⁉︎ オタクに聞こえるんだけど大丈夫なのそれ⁉︎ 真逆じゃね⁉︎」


「どうどう、落ち着いてくださいお客様」


「まぁまぁだろ、言うならよ! それ動物に言うヤツだよ!」


「わかっていますとも。早く人間になりたいですよね?」


「今も人間だよ失礼だな! ここ大丈夫かよホントに!」


「もちろん大丈夫です。とにかく当サロンの魅力を感じていただくには体験するのが一番。その辺の胡散臭いファッションモテ雑誌とは違うのです」


「あぁ、あれね。確かに胡散臭いよな。『男のモテ髪30選!』とかな」


「この夏はハゲでAGAアガれ! 夏モテ清涼ヘアスタイル30選! とかね」


「ねぇよそんなに。ハゲはせいぜい3種類だし、AGAってそれ直球で失礼じゃねーか! AGAの人の気持ち考えろよな」


「あっ、これは失礼を」


「視線を俺の頭に向けないでくれない?」


「……では毛を取り直して」


「気だよ気。取り直すのは気!」


「初回ということで、まずはお試しコースはいかがですか?」


「お試しコースか。まぁそれでいいかな。それ、どんな内容なんです?」


「まずはお客様のモテンシャルを計測させていただきます」


「モテンシャルって何⁉︎」


「モテのポテンシャルですよ。いわばあなたの戦闘力のようなもの。ささっと簡単に測れますので、まずはその場でくるりと回ってみて下さい」


「あぁ、全体を見るのか。ええと……こうか?」


「いえ、トリプルルッツでお願いします」


「無理だろそんなの! フィギュアスケートやったことねぇよ!」


「難しいならトリプルサルコーでもいいですよ」


「そもそも違いがわからねぇよ!」


「……この程度の違いもわからないとは。申し訳ありませんがやはり、お客様のモテンシャルは現時点でマイナスですね」


「マイナスだと? どこがマイナスなんだよ、具体的に言えよ!」


「回った時に見えたのですが、まずはお客様のパンツの裾。なんとだらしない、長くて床に擦れています」


「あっ……、そんな細かいところまで気が回らなかった……」


「ですので、まずは生まれ直しが必要ですね」


「お裾直しじゃなくて⁉︎ だいぶ思い切ったね⁉︎」


「裾を直した程度でどうこうできるレベルではありません。いっそ死んで子豚に生まれ直すべきかと」


「だから豚じゃねぇつってんだろ!」


「……まぁいいでしょう。とにかくあなたのモテンシャルはマイナスです。ウチは掛け算のエステ。マイナスには何をかけてもマイナスのままですから」


「お言葉だけどよぉ、マイナスにマイナスを掛けるってのはどうだ? プラスになるだろ?」


「お客様、現実見て下さい。それは数学の話です。デブにハゲを掛けたらどうなると思います?」


「地獄だな!」


「それがお客様の現状です」


「俺はデブでもねぇしハゲてもねぇよ!」


「とにかく、まずはあなたのモテンシャルをプラスにするところからですね。まずはステップワン。女性に花を贈るシチュエーションから指南しましょう」


「花? そんなのでモテンシャルが上がるのか?」


「もちろんです。今から見せる3つの花の中から、これだと思うひとつを選んで下さい。どの花が最も相応しいかを」


「おぉ、問題形式か。よしこい、モテンシャルがプラスなのを証明してやるぜ」


「ではいきます。バラ、ガーベラ、チューリップ。最も相応しいのはどれ?」


「……改めて考えると難問だな。どの花もそれぞれ美しい。てことは、どの花を選んでも真心を込めて贈るのが正解なんじゃないか? よしあえての王道、俺はバラを選択するぜ! バラだバラ!」


「ブッヒー。ハズレです」


「ブッブーだろ、そこはよ! あんたやたら豚にこだわるなぁ!」


「正解はガーベラかチューリップなんですよ、あなたの場合。あなたがバラだけは選んではならない理由、わかりますか?」


「いやなんで俺だけ! 差別だろ、バラ選んだっていいじゃないか! そんなに俺には似合わないか?」


「いいえ似合いすぎるんですよ。豚がバラ持ってたらどう思います? 次はポン酢かな? ってなるでしょう?」


「豚バラ鍋かよ! 豚じゃねぇつってんだろ! そろそろ豚から離れてよマジで! 俺が太ってるみたいじゃねーか!」


「でも豚は綺麗好きですし可愛いですよ? 実は体脂肪率も低いですし、太ってるのではなく身体が大きいだけです。あぁすみません、あなたとは真逆ですね。これじゃあ豚に失礼でした」


「まず俺に失礼ってなってほしいなぁ!」


「まぁ今のであなたのメンタルモテンシャルはわかりました。やはりマイナスです。これはもう、フィジカルモテンシャルを強引にプラスにするしかないですね」


「どうやったらプラスになるんだよ?」


「エステの施術しかありません。まずは顔面のリフトアップから。このソルトスクラブで顔を洗って引き締めてください」


「おぉ、こうか? うーんザリザリしてちょっと気持ちいいな」


「次はこのオイルを顔に馴染ませ、この植物の根を顔に貼ってください」


「……これゴマ油とニンニクじゃねーか! 美味しくなっちゃうよ俺が!」


「まだ顔をタコ糸で縛る工程があるのですが」


「チャーシューの作り方だよそれ! もういい、もういいよ! このままここにいたら出荷されちまうよ! 俺、帰るからな!」


「……お客様、それですよそれ」


「あん? どれだよ? 何言ってんだ?」


「立ち向かう意思で前を見据え、顔と心と鼻が上向いている。とてもカッコいいですよ」


「鼻が上向いたら豚だろうが! もういい、じゃあな!」


「あ、お客様。せっかく来店していただいたので、帰られる前にアドバイスをひとつだけ。モテる上での心構えです」


「……なんだよ?」


「モテの秘訣、それは」


「それは?」


「モテ雑誌やエステサロンに頼らず、自ら道を切り拓くことです」


「だろうな!」




【終】

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コント「こんなエステサロンは嫌だ」 薮坂 @yabusaka

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