後編
それから30分くらいして、スバルが席を立った。
「よし、そろそろ休憩しよう。飲み物を用意してくるね。ココアでいいかな?」
「あ、飲み物なら持ってきてるから、お構いなく」
「まあまあ。せっかくだから温かいのを飲んでいきなよ」
焦るようにパタパタと部屋を出ていくスバル。なんだか気を遣わせてしまったみたいだ。妙に落ち着かなくて首をぐるぐる回していると、意外と早くにスバルは戻ってきた。手に持ったお盆の上には電気ポットとマグカップと粉末ココアが乗っている。
「……うん、いいけどさ。ここで沸かすの?」
「熱い液体を運ぶと危ないし、ココアの濃さとかも自分で調節できたほうが効率いいかと思って」
「いいけどさ、いいんだけどね、うん。我々が移動するという選択肢もあったのではないのかね?」
電気ポットはそこそこ重そうだ。どこか釈然としない。スバルの顔をじーっと見つめると、バツが悪そうに目をそらした。
「……実はちょっと話したいことがあるんだけど、家族が帰ってくるかもしれないからダイニングには居づらいというか」
「さっき部屋に入る前にお母さんには挨拶したよね?」
「そっちじゃなくて、兄がくる予定なんだ。子連れで」
「お兄さん、もう結婚して子どもいるのか」
「今年で22歳だけど一昨年に10歳年上バツイチ子持ち女性と結婚して7歳の息子ができた」
「多いよ、情報量が」
「僕だってまだ気持ちの整理がついてない」
別に成人してるなら何歳で結婚したっていいけれど、自分と配偶者より妹と義理の息子の方が年齢が近いのはいささか問題があるのではなかろうか。主に倫理的に。
「まあ……大人だし恋愛は自由、なのかな。でも恋愛と結婚は別だよねぇ」
「本人はいい人だし経済的にも自立してて何の問題もないんだ。あのカーテンもお義姉さんからの贈り物だしね。ただ、誰かに聞いてもらいたかっただけなんだ」
「うんうん、私でよければいつでも話しな」
「ありがとう。ネコちゃんは優しいね」
突然の美少女スマイルは心臓に悪い。むしろ役得。どっちやねん。ダメだ、混乱してきた。
ちょうどお湯が沸いたので、自分の分のココアを作るふりしてスバルから目をそらした。
「ああ、スバルが恋愛苦手なのってもしかしてそのせいだったりする?」
「……そう見えるならそうかな、そうかも」
「実は気になってたんだ。ほら、恵まれてる人が舐めプしてたらモヤるじゃん。数学得意なはずなのに基礎クラスに居座る三好とか」
「……彼はそういう理由で基礎にいるわけじゃないと思うけど」
「美人が恋愛しないのは世界の損失だよね。もちろん本人に選択権があるのは承知してるけど」
「……そういうネコちゃんはしないの、恋愛」
「え?」
驚きでカップに向いていた視線をスバルに戻すと、スバルが思ったより冷ややかな目つきでこちらを見ていた。無意識に何か地雷を踏んでしまったらしい。非常にまずい。
「僕が一番好きなのはネコちゃんだよって言ったら、どうする?」
「えぇ……嘘でしょ」
「うん、お察しの通り嘘だ」
「何故そんなことを……?」
「嘘告白された話を前にしたつもりだったのに、信じてくれてないみたいだから同じ目に合わせてみた」
「ごめんなさい」
「こんなこと何度もされたら色恋沙汰に関心なくなるからね?」
「本当にごめんなさい」
「よし、許す」
その笑顔は、太陽のように眩しかった。
前言撤回しよう。星村スバルは嫌な女というより、怖い女だった。
「それはそれとして逆恨みされそうだし、私以外には絶対にそういうこと言っちゃダメなんだからね」
「そういうネコちゃんはもっと考えて発言したほうがいいと思うよ。手遅れかもしれないけど」
ふたりはトモダチ 葛瀬 秋奈 @4696cat
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