……君はアイドル! そして三月九日の第二ボタン。

大創 淳

第二回 お題は「あこがれ」


 ――僕は今、第二ボタンを手に、桜舞い散る大樹にもたれ掛かっていた。


 或いは寄り添う。そっと導かれる想い出の中。



 三月九日は、其々の道を歩む一区切りの日。


 君は僕の『アイドル』……イコール、あこがれ。


 とある小説サイトの『書くと読む』に青き彗星の如く現れた君は、僕を夢中にさせ、毎日更新されてゆくエッセイに、心ときめかせさせた。


 僕は知っている。同じ学園に君がいたこと……


 でも、君は僕を知らない。あくまでサイト上の付き合いだから。僕は君のフォロワーで君は僕の推し。リアルな付き合いには結びつかず……だからこそ、応援コメントが唯一のコミュニケーション。連載から半年が過ぎてからのレビューも。


 四年半も彼女はエッセイを続けてきた。嘘のない、飾らないアイドルだった。


 ボブでエンジェルリングが輝く黒い髪。前髪から覗く目がキラキラと輝き、白い肌は彼女の笑みを引き立て、制服の上から見る小柄で華奢きゃしゃな身体は、その奥にあるエッセイで綴られる文章からは反比例……だから余計に僕は魅せられていた。


 ――外見も内面も包み隠さずに。


 それが彼女の魅力と僕は思った。


 そして今、手に残る感触。彼女の第二ボタン。


「ずっと好きでした」と、僕には精一杯のその言葉。学園で見かける度に募る想い。一方的な想いでも、僕の青春が謳歌された瞬間。でも、彼女には……


 普通のファンの一人。


 リアルでは面識もなく、あくまで初対面。


 そしてもう一つ、彼女は一人称が僕と同じで『僕』……


 リアルでも同じだった。彼女の肉声を直に聞いた時は、何とも言えない感動を覚えた。


 エッセイで語られる内容は、僕が想像もできない程の波乱万丈……なので余計に可愛らしく思えて、何だか安心感を得られた。等身大の彼女で安心を得たのだ。


 遠いようで遠くない関係。でも恋ではなく、それよりも遠い距離。彼女はあくまで『あこがれ』の存在。そして『アイドル』……だからこそ、想いは永遠。


 ――早朝、そっと彼女の下駄箱に一通の手紙を入れた。


 親愛なる『ウメチカ』さん。と認め、彼女の本名は伏せる。梅田うめだ千佳ちか……


 そこから星野ほしの千佳になって、今はもう彼氏と結ばれ、南條なんじょう千佳になっている。


 溢れる涙を、そっと舞い散る桜が隠してくれた。

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……君はアイドル! そして三月九日の第二ボタン。 大創 淳 @jun-0824

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