第8話 かけがえのないもの

第8話

「…ん」


 ゆっくりと目を開けて、ノヴァが夢から覚める。

 白い天井と白いベッドを見て、

 ここが医務室であることが分かったノヴァは

 傍らに寝息と手を握る温かい感触がして横を向く。


「アークさん」


 ぐっすり眠っているアークを起こすか躊躇していると、

 足跡がしてカーテンを開き人が現れる。


「おっ!ノヴァくん!目が覚めたんだな」


 顔を出したのはラシルでニッコリと笑顔を向ける。


「あ、あの…僕は…」


 一体いつまで眠っていたのだろうかと聞く前に、声と気配に気づき

 アークが夢から目を覚まして顔をあげる。

 そして、目を開いているノヴァを見て安堵した。


「ノヴァ!良かった…」


 泣きそうな表情でノヴァの手を握ったまま深く頭を下げる。


「俺が油断したせいで、力を使わせてしまった…本当にごめんな」


 あの時、ノヴァを救えたという安心感と達成感でヴァルトの殺気を察知できず

 瀕死の重傷を負い、膨大な魔力を消費させてしまったとアークは後悔する。

 これが任務なら戦力である自分が欠けたことで戦況が悪くなり、

 死者が出たかもしれない。

 ずっと自分を責めていたと顔色を見て気づき、

 ノヴァは手を握り返して言う。


「僕がアークさんを失いたくないと思ったんです。

 友達を助けたいと、あの時、僕のために戦ってくれた

 皆の気持ちと同じですよ。だから謝らないでください」


「ノヴァ…」


 笑顔でしっかりと目を見て答えるノヴァにアークは救われた気持ちになり、


「ありがとう」


 命を救ってくれたことも含めて、そう笑顔で返した。

 それを傍で見届けていたラシルも笑顔になり、軽く手を打ちノヴァに言う。


「さて、二日も寝ていたノヴァくんのために俺は飲み物を買ってくるぜ」


「えっ!僕は二日も眠っていたんですか!」


 驚くべき事実を知り、思わず声をあげるとラシルが小さく何度も頷く。


「なかなか目を覚まさないノヴァくんを、みんな心配して

 時間が空く度に見舞いに来てたのさ」


 そこで言葉を止め、ラシルはアークの肩に手を置く。


「特にアークは医務室に寝泊まりして朝から晩まで見守っていたぞ」


 ニヤニヤしながらラシルが言うと、それに反論せずにアークは下を向いて頷く。

 先程のアークの言葉を聞く限り、罪の意識があっての行為だろう。


「アークさん、ありがとう」


 素直に感謝の言葉をノヴァが言うと、顔を上げたアークは笑顔になる。


 その時、


『ノヴァくん、大丈夫かな』


『きっと大丈夫よ!絶対に目を覚ますと信じましょう』


 リムルとセレシアの声が聞こえ、扉を開く音の後に足音が近づく。


「あ、お兄ちゃん…ノヴァくんは…」


 それに頷き、ラシルがゆっくりとカーテンを開ける。

 目を覚ましているノヴァに目が行くと、ラムルは涙を浮かべて

 セレシアは安堵した表情になった。


「よかった…本当によかった」


「心配かけてごめんね」


 涙を見たノヴァは相当に心配をかけてしまったと苦笑する。


「ううん、いいの…それに、アークさんを救ってくれてありがとう」


 ノヴァが居なければ確実に死んでいたアークの命。

 それを救ってくれたノヴァにリムルは心から感謝した。

 小さく頷き返していると、廊下を走る足音が近づいてきた。


「やぁ!みんな!愛しのノヴァくんは眠りから目を覚ましたかな?」


 和やかなムードの中、

 ひと際キラキラとした表情で現れたのはディオカルノだった。


「おい…ここは医務室だぞ。無駄にキラキラさせて騒ぐな」


「いたっ!無駄って何だい!」


 遅れて静かにやってきたラルキスに軽く頭を叩かれ、

 二人の先輩はベッドに目を向ける。


「おおっ!ノヴァくん!やっと、お目覚めか!」


 ノヴァを目にしたディオカルノは笑顔で言い、

 安堵した表情のラルキスも小さく息を吐く。


「ご心配おかけしました」


 素直に気持ちでノヴァが謝ると、ディオカルノは小さく頷く。

 ラルキスが医務室に入り、扉を閉めたのを見届けると


「さて…ノヴァくんも目を覚ましたし、

 重要人物達も揃っているし本題に入ろうか」


 そう言うと真面目な顔をして、右手を上に掲げた。


「あ…」


 魔力を察知したリムルが小さく声を上げる。

 何となくピリピリした気を感じて、セレシアが聞く。


「な、何をしたんです?」


「結界だよ。部外者に聞かれたら厄介な話だからね」


 音響魔術は習得するものも少ない。

 それを簡単に発動できるディオカルノに、リムルはすごいと息を飲んだ。


「ノヴァくん、あの夜の事情はアークくん達から聞いたよ」


 ディオカルノが言う「あの夜」とは屋敷で起きた夜のことだろう。

 なぜ、先輩達があの日の事を知っているのか

 気を失っていたノヴァは分からず、目を丸くする。

 それを見たアークは命を救ってもらったあとに起きた事を説明する。

 先輩二人が来なかったらアーク達は無事に此処へ帰れなかったと知り、

 感謝の言葉を言う前に、ディオカルノが腕を組んで信じられない事を口にした。


「君が大賢者の残した、あの至高の遺産なら王室に引き渡さないといけない」


「!」


 ラルキス以外の全員がディオカルノの言葉に息を飲むのが分かった。

 魔奏具と遺産は莫大な魔力と未知の力により危険とされ、

 王の管理下に置かれる。

 無意識に発動させてしまった力であったが、未知の部分も多い。

 いつ暴走させて周りに被害を与えてしまうかわからない。

 そう悲観してノヴァが従ったほうがいいのではと思っていると


「連れて行かせません。ノヴァは遺産なんかじゃない、大切な友達だ」


「!」


 アークがノヴァを庇う様に前に立ち、ディオカルノにキッパリと言う。


「そうです!私たちの友達です」


「無理やり連れて行こうっていうなら、容赦しないわ」


「友達を助けるのに理由なんかいらないな」


 リムルに続いてセレシアとラシルも、ノヴァを庇って立ち塞がる。


「み…みんな…」


 目に涙を浮かべてノヴァは四人の背中を見る。


「やれやれ、お前も人が悪いな」


 その時、扉の前にいたラルキスが息を吐き、ディオカルノに向けて言う。


「最初から王室に引き渡す気もないくせに」


「えっ」


 それを聞いた五人は目を丸くする。

 ディオカルノは真面目な顔から笑顔になり、バレたかーと腰に手を当てる。


「友情を確かめたかっただけだよ。

 誰も庇わないなら私がノヴァくんを攫ったのになー」


 本気か嘘か分からない事を言い、

 ディオカルノは舌を出してウインクする。


『先輩じゃなかったら、蹴とばしたのに…』


『同感…』


『セレシア、お兄ちゃん…お、おちついて』


 二人を宥めるリムルの横で、アークも小さく安堵の息を吐く。

 そんな中、ディオカルノはノヴァを安心させるように告げる。


「あの光の魔力は盗品の魔奏具が

 暴発したって事になっているから安心していいよ」


 アーク達も窃盗に気づき、ディオカルノ達よりも

 先に侵入していたという事にしたらしい。

 主犯のヴァルトは終身刑になり、地下牢に閉じ込められ

 協力していた者たちも厳しく罰せられたという。

 事件が無事に収束していることを知り、ノヴァはホッとする。


 そして、感謝の気持ちで胸がいっぱいになり、


「みんな、本当にありがとう」


 満面の笑みを浮かべてノヴァは言う。

それを見届け、


「さあ!今夜はリィンちゃん復活祝いだ!ラスの奢りで宴にしよう!」


「おい…なぜ俺が…」


ディオカルノが結界を解き、意気揚々と皆に言った。

すぐさまラルキスが反論しようとしたが


「ありがとうございます!ラルキス先輩!」


セレシアが近づいて礼を言ったため、言葉を飲み込み後退る。

その言動に女性恐怖症を知らないセレシアとリムルは首を傾げ

情報通のラシルとディオカルノはニマニマと笑っていた。


そんな光景をノヴァは賑やかで楽しいなと見つめる。

するとアークがノヴァの手を握り、ゆっくりと微笑む。


「これからもよろしくな、ノヴァ」


手を握り返し、


「うん!こちらこそ!」


同じように微笑み返してノヴァは言った。



第1章 終幕

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