あこがれ(KAC) 〜妹ちゃんは作家のお兄ちゃんにあこがれる〜

滝川 海老郎

あこがれ

 今日もお兄ちゃんは子供部屋に引き篭もって、トイレや食事、お風呂以外ほとんど出てこない。

 いわく「男女七歳にして席を同じゅうせず」というように物心ついたときには私、アユムの部屋はお兄ちゃんとは別にされていた。

 二階の隣同士のお部屋を使っていて、もう一部屋は物置になっている。


 お兄ちゃんことソウスケは引き篭もりの通信制の高校生にして、なんと書籍化作家なのだ。

 あれは私が中学生、お兄ちゃんが高校一年生の時だった。

 お兄ちゃんがいきなり部屋から出てきて叫んだんだ。


「アユム、やったぜ俺!」


 普段おとなしいお兄ちゃんがうれしそうに声を掛けてきたのだ。

 そのまま私の前を通ってトイレに向かっていったので何のことか聞けなかった。

 あとで聞いたところによると、なんとライトノベルのネット小説コンテストで銀賞を取ったのだとか。

 賞金十万円に、書籍化とコミカライズが確約なのだそうで。


 それから一年経ち、お兄ちゃんの本が出版された。コミカライズも連載が開始されていた。

 お兄ちゃんが書いたというラブコメが実際に本になった時は、みんなで本屋に行って確認してしまった。


「お兄ちゃん、あるある」

「おおぅ、本当に並んでるんだな」


 本当に不思議なことってあるんだね。そしてコミカライズの連載をネットで見る。

 確かに同じタイトルで、作者名もお兄ちゃんが使っているペンネームだった。

 家族みんなそれぞれスマホで確認していた。


 タイトルは「妹スクールラブ」。

 ヒロインは「私」だよ、どう見てもね。名前は違って歩波と書いてホナミちゃんだったけど、歩はアユムだもんね。

 だからすごく親近感があって、夢中で読んだんだよ。

 お兄ちゃんの理想の妹、料理も勉強もできて、でもスポーツはちょっと苦手、そんなホナミちゃんはお兄ちゃんに甘々で、甘やかすし、自分も甘え上手、理想の兄妹関係。でも実はホナミちゃんはお兄ちゃんのことが男の人として好きなのを隠してる甘く切ないラブコメなのだった。

 まるで私たちみたい!

 お兄ちゃんには秘密だけど、そんな小説書きのお兄ちゃんのこと、頑張ってると思うし、私も好きなんだと思うんだ。

 そう、一言で言うなら「あこがれ」なの。私のお兄ちゃんは。


 私好きだよ。早く気づいてね、お兄ちゃん!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あこがれ(KAC) 〜妹ちゃんは作家のお兄ちゃんにあこがれる〜 滝川 海老郎 @syuribox

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ