事業が軌道に乗るのに数年を要した。


 雄樹の構想した和モダンブランドは、デパートやネット通販を通じて、少しずつファンを増やしていた。海外の展示会に出展する機会も得て、家具やアクセサリーが評価されるようになる。売れ行きはひな人形を模した子供向けの玩具、そして和風ジャケット。売上比率はヨーロッパが八割を占める。


 今までと全く違う事業だが、デザインには間違いなくひな人形作りで培ってきたものが活きている。万全にはほど遠いが、工房にかつてのような悲壮感はない。


 洋一には何とか会社の存続を見届けさせることができた。


「アパレルってお前……想像しとらんかったわ。まあ、お前は昔から女子よりも服やアクセサリーが好きやったからな。新しい道を開くのも男の役目やね。ご苦労さん」


 息を引き取る三日前に洋一が雄樹に向けて言った言葉は、実にあっさりしたものだった。


 葬儀後、雄樹は栄子や子どもたちとともに、父の眠る墓に手を合わせた。山人や真一も、久しぶりに顔をそろえる。みんな今はそれぞれの人生を歩み、職種も住む場所も違うが、雄樹の手には一瞬だけ、昔のように「長男としての責任」や「みんなを守らなくては」という感覚が戻る。でも、もう以前のように肩に重荷がのしかかる感じではなかった。


 栄子の収入は相変わらず雄樹の倍以上で、弟たちの年収が自分を追い抜くのも時間の問題だが、学歴や収入を気にする自分をもう隠そうとは思わない。自分は男なのだから。

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ひな人形、男 吾輩はもぐらである @supermogura

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