滄の門【KAC20252】

銀鏡 怜尚

滄(あお)の門

「世の中にこんな綺麗で賢いお姉さんがいるなんて」

 青木あおき優栞ゆうかは、テレビに映る女子高生のとりこになった。


『解答をどうぞ!』

たん!』

 ピロリロリロ!

『優勝は、滄洋女子高校複合チーム、おめでとうございます!』。


 たまたま、クイズファンの父がこれを録画していたおかげで、このシーンを何度も何度も繰り返し観ている。優栞のお気に入りシーンだ。


 4年前の『全国高校生知力甲子園』という毎年恒例の番組。高校生がチームを結成し、知力とチームワークを最大限に発揮させ、クイズの頂点を狙うのだ。

 当時まだ小学二年生だった優栞には、難しすぎて全然解らなかったけど、優勝を決める解答を発した大城おおしろ優梨ゆうりという才媛は、異境の地であまりにも眩しかった。優栞が彼女に憧れるきっかけとなるには充分すぎるほどの輝きだった。


 彼女が着ていた青のゼッケンには、滄洋女子そうようじょしと書かれていた。調べていると、愛知県の女子中学校・高校の中高一貫校だった。そして、とにかく名門だということ。優栞もちょうど名古屋に住んでいることから、余計にシンパシーを感じた。

 その大城優梨は、いま東大医学部にいる。何と東大のクイズの猛者と芸能人が戦うクイズバトル『東大皇帝とうだいこうてい』という番組の、絶対的エースとして活躍していたのだ。


 大城優梨との出会いは、優栞を大きく変えた。

 塾を変えて欲しいと母にねだったのだ。地元の個人塾から、難関中学を標的ターゲットとした大手学習塾に。もちろん、滄洋女子中学に入るためだ。

 勉強も自分からするようになった。努力はすぐに結果として表れ、テストの点数も上がると、ますますやる気に拍車がかかった。

 誰にも正しく読まれなくて嫌いだった『優栞』という名前も、『優梨』と漢字が似ていることに気付いてから、急に愛着が湧いた。


 そして、あの『知力甲子園』から4年経った現在いま

 メジャーリーガーの名言じゃないけど、『憧れるのをやめましょう』はまさに自分に言い聞かせるべき状況になっていた。


 学習塾でもトップクラスの成績を収めるようになり、模試でもA判定となった優栞は、滄洋女子中学の入学試験の願書を提出した。


 やっと、大城さんと同じスタートラインに立てる。

 優栞は、気持ちを奮い立たせながら、あおの門を潜った。

 

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