レッド

くにすらのに

レッド

 みんなに憧れられるようなヒーローになる。その一心で俺は日々の鍛錬に励みトップの成績で大手ヒーロー企業に入社した。

 与えられたカラーはグリーン。新人だから仕方がない。先輩レッドの元で経験を積んで参謀的なブルーを経て最終的にレッドになるのが定番出世コースだ。


 グリーンの担当は主に後方支援でレッドやブルーに比べると人気は低い。だがこれは子供たちの間での話だ。大人になるとグリーンの渋い活躍が心にグッとくるというのは自分自身が年齢を重ねて感じたことでもある。


 それでも俺はレッドになりたい。戦隊を引っ張るレッドこそみんなの憧れ! 憧れられると同時に俺自身も憧れている。


「グリーン、危ない!」


「シールド展開! 最大出力!!」


「「「「グリーーーーーーーーン!!!!」」」」


 レッドがいち早く危険を察知してくれたおかげでシールドの展開が間に合った。敵の攻撃から街を守ることには成功したし、最大火力を放ち満身創痍となった強敵を仲間たちが倒してくれた。ただし、俺だけは無傷では済まなかった。特殊な素材で作られたヒーロースーツはボロボロ。もはや痛覚がマヒするくらい肉体にダメージを負ってしまった。


 これではヒーローを続けることはできない。


 基地に戻る前にそう自覚せざるを得なかった。憧れのレッドにはなれなかったけど、グリーンのかっこよさはわかる人にはわかってもらえたと思う。レッドに必要なのは実力だけじゃない。運やカリスマ性を味方にできるやつだけが戦隊のレッドになれるんだ。


 皮肉にも血で真っ赤に染まった自分の体が視界に入る。薄れゆく意識の中で憧れのレッドになれたかもしれない未来が走馬灯のように駆け抜けていった。


「…………ここは」


「目覚めたかグリーン。キミのおかげでこの街は……いや、世界が守られた」


「寝起きの一言目にしてはスケールが大きすぎませんかね」


「そんなことはない。グリーンがあの攻撃をその身に引き受けたおかげで被害を最小限に抑えることができた」


「これがテレビ番組なら歴史に残るヒーローとして名を残せたんでしょうけどね。俺はこの先、どう生きれば……」


 憧れのレッドが、もしかしたら大人だけでなく子供たちもグリーンを称賛してくれているのかもしれない。だけど、賞賛の声だけでこの先もずっと生きていけるほど社会は甘くはない。


 大けがを負った体でどんな仕事ができるだろう。ヒーローとしての鍛錬を積んで自慢の体力を発揮できる体ではないのはわかっているつもりだ。戦いのための後方支援も一般社会で役立てる機会が思い浮かばない。


「どう生きるかはグリーン、キミ次第だ。自分の変化に戸惑うかもしれないがきっと素敵な未来が待っている。ヒーローの道を進んでも、他の道を進んでも、我々はキミを応援する」


「ヒーローってそんな無茶な。あんなに体がボロボロになったら治るまでに何年……いや、一生治りませんよ」


「そうか。まだ寝起きで変化に気付いていないのか。無理もない。我々も信じられなかったからな」


「あの、さっきから何を言ってるんです?」


「他人が聞く声と自分が聞く声は違うと言うしな。それに何日も眠っていたんだ。他にもいろいろな変化があるんだ。全てを把握するのは難しいだろう」


「だから一体なにを……!」


 先輩であるレッドに対して怒り交じりの大声を出して違和感を持った。なんだか自分の声が高くなっているような気がする。それに体が軽い。ずっとベッドで寝ていてやつれたからではなく、しっかりと回復した実感があるのに体重が大きく減っているような。


「グリーンが運ばれた治療室にトリの降臨があった。悪をトリ締まるヒーローの祖。我々もその姿を見たのは初めてだった」


「そんなバカな! トリの理念は今でも語り継がれてますけど何百年も前に亡くなっているって」


「本体は……な。その魂は今も生き続けている。きっとそういうことなんだろう」


 ヒーローを生み出した存在ならそういうことになっていても不思議ではない。だからと言ってレッドが言っている俺の変化が何なのかという答えは出ないままだ。


「トリがグリーンのダメージをトリ除いてくれた。体は完全に回復していつもで前線に復帰できる……のだが、魂の存在とはいえいささか高齢でな、その……アレもトリ除いてしまったんだ」


「アレ?」


「なにか違和感はないか? その、股に」


 高くなった声、軽くなった体。レッドに言われて、そして自分の手で確認した股間からなくなっているアレ。


「レッドは男という固定観念は古臭い時代だ。新生グリーンよ。またレッドを目指してヒーローをやってみないか?」


 差し出されたレッドの掴んだ俺の胸は妙に高鳴っていた。憧れの意味が少し変わったような気がするけど、そんなことは関係ない。


 史上初の女性レッド。みんなに憧れられるレッドに

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

レッド くにすらのに @knsrnn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説