あこがれの、その先へ

宮永レン

あこがれの、その先へ

 グラウンドに茜色の光が差し込んでいる。サッカー部の練習はまだ続いていた。

 その光景を、俺は少し離れたベンチに座って黙って見ている。

「……もう無理かもな」

 膝をサポートする装具に制服の上から触れると、自然とため息が漏れた。

れい、まだ帰らねえの?」

 背後から名前を呼ばれて振り向くと、同じクラスの悠真が立っている。こいつとは小学校からの腐れ縁だ。

「こんな吹きっさらしの場所にいたら、傷が痛むんじゃねえの?」 

「わかってるよ」

 俺は、拗ねたように口を尖らせる。

「次の大会が最後ってわけじゃねえだろ?」

 悠真は俺の隣に腰かけて、松葉杖のステンレス部分をつるりと撫でる。

「……でも、これ逃したら、もうレギュラーには戻れないかもしれない」

 俺は低くつぶやく。

 悠真はしばらく何も言わなかったが、ふいに空を指さした。

「……あれ、見ろよ」

 視線の先には、茜色の空に伸びる一本の飛行機雲があった。

「俺さ、昔からお前のこと、あの飛行機雲みたいだなって思ってた」

「は?」

「いつも目標に向かって一直線でさ。何があっても迷わないし、みんなを引っ張っていくし」

「そんなことない……」

「いや、あるよ。小学生の頃から、ずっと憧れてたんだ」

 悠真は静かに言う。

 いつもはふざけたことしか言わない奴なのに、急に真面目な顔で言うからどうしていいかわからなくなる。

「お前こそ、人のことちゃんと見てるよな。誰がどんなふうに努力してるかも気づいて、ちゃんとそれを認められる。そういうとこ、尊敬するし……俺も、結構、お前に憧れてるけどな」

 そう返すと、今度は悠真が目を丸くした。

「へ?」

「いや、マジで」

 茜色の空に、飛行機雲が伸びていく様子を、目を細めて見つめる。

「なあ、蓮」

 一緒に空を見上げていた悠真がぽつりと名を呼んだ。

「ん?」

「お前が飛べなくなったら、俺が背負ってでも飛ばせてやるから」

「……え?」

「しんどいことは全部吐き出せ。そしたら少しは軽くなるだろ?」

 悠真はそう言って、にかっと笑う。

「……はは。ほんと、お前ってすごい」

 その言葉だけで、沈んでいた心に光が差した気がした。

 もう少し手を伸ばして、憧れの先に追いついてみようか。いつかまた、真っ直ぐに飛ぶ日を夢見て。


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