日向あられの日常

降矢あめ

第1話

 あられと聞いて一番に思い浮かべるものはなんだろう。

 キャラクター、天気、お菓子。

 様々だが、私の名前を聞いた人はほとんどが同じ答えを持つと思う。

 日向あられ。

 全部ひらがなで書くと、ひなたあられ。

 私の名前はひなまつりを連想させるらしい。

 その名の通り私は、3月生まれだ。ただし、名前の由来は意外にもひなまつりではない。

 実は私の生まれた日の朝、あられが降っていたという自然現象によるものだ。しかし、苗字と合わさって誤解を受けることが多い。慣れっこな私は、名前について話題になると周りの期待に添えるべくひなまつりだと答える。

 ごくたまに、疑問を持つ人を除いては。

「誕生日違うじゃん」

 3月3日、ひなまつりの放課後。私は、前の席に座る男子生徒を見た。

「よく気がついたね」

 今日の昼、私はクラスメイトに盛大に祝ってもらった。お菓子パーティーだ。けれど実は、私の誕生日は今日ではない。

 私の誕生日は3月1日。2日前。

「名前と違うから、覚えてた」

「名前と違うから覚えられないんだけど」

 そう返すと、彼はたしかにと頷く。

「ほんとの意味はなに?名前の」

「天気だよ、雪のあられ」

 私は、声を小さくして付け加える。

「みんなには内緒ね」

 2日なんて誤差だし、誕生日を忘れてしまうことも、間違えることもよくあることだ。それよりも祝ってもらえることが嬉しいし、私はその気持ちに水を指すようなことはしたくない。

「大丈夫、俺も同じだから」

「そうかな、と思ってた」

 私は、目の前の彼をじっと見つめる。私だって誰にでも、話すわけではない。

 五木たんご。彼の名前をはじめて目にしたときから、私は彼に親近感を抱いていた。

「端午の節句」

「5月5日じゃないけどね。俺の名前はダンスのほうのタンゴ」

 両親がタンゴ教室で出会ったんだってさ、と続ける。

「同類だね」

「そうだな。でも」

 彼は一瞬躊躇い、横顔で呟く。

「俺はあんなに祝ってもらえない」

 大型連休のせいだ、とわかった。

 クリスマスと似ている。

「誕生日いつ?」

「祝ってくれるの?」

「お返しに」

 私は鞄からチョコレート菓子を取り出した。2日前に机に入っていたのだ。

「これのおかげで、今年の誕生日はいつもより悪くなかったから」

 私が笑いかけると彼もにっこり微笑んだ。

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日向あられの日常 降矢あめ @rainsumika

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