第7話 河口先輩
「いや、他の庶務がやってる」
「でしょうね。そんな感じするわ」
おい、それどういう意味だよ。喧嘩だ喧嘩。裸で喧嘩しようぜ。
なんて思っていると、
「それじゃ夢乃、頼んだ。河口先輩を連れてきてくれ」
「うん、任せて! 一度も話したことなけど!」
話したことないのか。だが彼女はそんなのお構いなしに、ずかずか教室の中に入っていく。ありがとね。
通りかかる生徒達は時々こちらに振り向くが、せいぜいその程度だ。私は現在生徒会の業務中です、もうちょっとガン見してくれてもいいんだよ。みんな、生徒会って知ってる?
私はこんな感じで他の学年の教室に行くことには慣れているが、風呂井は心底不安そうな様子だ。
私から数歩離れた場所で周囲の視線をチラチラ気にしながら立ち尽している。
そんな彼女がふと、ポカンと口を開けた。
先輩らしく落ち着いた様子で先輩らしくクールに廊下を通りかかった色玉先輩に、風呂井は頬を真っ赤に染めながら軽く頭を下げた。
すると色玉先輩は優しく笑って小さく手を上げた。
風呂井は「あっ」と小さな声を出して、自信なさげに手を振って返す。その手は震えていた。部室とは違ってここには他の生徒達もいる。それも三年生の。緊張してしまうのは当然だろう。かわいいね。
数秒だけ立ち止まっていた色玉先輩は、風呂井の様子を確認するとそのまま通り過ぎて行った。風呂井は彼の背中を目で追い続ける。手は下げられているのに、まだ左右に揺れていた。よかったね。
「……もういい?」
遠慮と呆れが混じったような声音。そこにいたのは夢乃だ。
「お前、いつからいたんだ……⁉︎」
「……結構前からいたわよ」
「全然気づかなかった……!」
わざと大袈裟に驚いた私に、夢乃は恨めしそうに苦笑した。知ってたよ。気づいてた。でも無視してただけ。
「あ、
はっとする風呂井。こちらはガチで気づいていなかった様子。それもそうだろう。頭の中は色玉先輩で埋め尽くされていたはずなのだから。
別に風呂井は全く悪くないため、さっと夢乃は快い笑顔に切り替えて風呂井に振り向く。
「さ、さーっき戻ってきたばっかり! ……それよりさ、ほら、河口さん!」
そこには長めのショートカット女子、河口圭奈がいた。彼女に至っては私もガチで死角に入ってて気づかなかった。ヤベェよ……待たせちゃった。無視しちゃってごめんなさい。
大丈夫? 怒ってない? とチラと顔を伺ったのが、かなり大人しい性格のようで、その無表情な顔からは感情が読み取れない。でも、怒ってはなさそう。やったね。……ホントに怒ってない……よね?
「サンキュ」
夢乃に礼をしてから、心底煩わしいが河口先輩に声をかける。
「突然すいません。それに待たせちゃって。生徒会の晰根ルナです」
「生徒会……、どうかしたの?」
一瞬、眉がピクリと動くと小声で端的に聞いてくる。長い前髪から覗くその漆黒の瞳が、何を見ているのかは皆目検討がつかない。
私が一通り事情を話すと、彼女はやや申し訳なさそうに口を開いた。
「ごめん、ちょっとわからないな。私は庶務だったし、議事録は書くの手伝ったこともないから、全然知らないんだ」
「そうですか」
確かに同じく庶務の私も、議事録に関しては尾幌先輩が一人で書いているので詳しく知らない。
だが、私達が一番に知りたいのは議事録自体に関してではない。少々聞きにくいが、はっきりと尋ねる。
「誰か、生徒会に恨みを……」
「圭奈〜! どうかしたのー?」
私の質問は、天真爛漫な声に遮られてしまった。
ウェーブのかかった金髪ミディアム、美しい顔立ち、濃いめのメイク。それらを惜しみなく駆使して、明るい笑みを浮かべている。
軽快なステップでやって来たのは前生徒会長、
もう一人のターゲットである彼女の方からやってきてくれるとは幸運だ。それにしても相変わらず快活で賑やかな人だ。会長時代となんら変わりない。
誰も生徒会に興味がないとはいえ、おそらく全ての二、三年生はこの人のことだけは知ってるだろう。
河口先輩はその陽気さに、鬱陶しそうな微苦笑を浮かべている。
「由真……、なんか生徒会の議事録が無くなったって……」
「そうなんだー。それは大変だっ。君は今の生徒会?」
身体を前のめらせ、私に顔を近づけてくる前会長。一緒に石鹸に似た、爽やかなシャボンの香りがやってくる。もうちょっと近づいてもらっても構わない。
その綺麗な顔面に思わず見入ってしまいそうになるが、今は彼女のペースに負けてはならない。なのでしっかりと、その端正な顔を凝視しながら答える。
「はい。庶務やってます」
「へぇ〜、じゃあ圭奈と一緒だっ」
「そうです。それで澤井先輩にもお聞きしたいのですが、先程から話している通り、去年度の議事録が無くなったんです。何か心当たりはありませんか?」
「いや〜、ないなー。もう生徒会室も半年以上行ってないし」
聞くと前会長は、人差し指を顎に当てて首を捻った。そう答えるのは予想していた。犯人で無くとも、犯人であったとしても。
今度は先程聞けなかったことを、前会長と河口先輩の二人に対して問う。
「結論から言って、犯人を探しているんです。誰か生徒会を憎んでいる人を知りませんか?」
「憎み……?」
「そんな人いないでしょー! まぁ、強いて言えば私かな?」
河口先輩は怪訝そうな表情を浮かべ、前会長は冗談めかして笑った。
晰根ルナはド変態。 夢の中ではド天才。〜現実とリンクする夢であなたと推理♡〜 赤木良喜冬 @wd-time
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