第6話 二度目の夢

 やはりパジャマだったはずの私は、制服を着ている。


 このやけにリアルな感覚、あの夢に違いない。


 そして何歩か先には、一人の女子生徒の後ろ姿。


 夜風に当てられ、さらりとロングヘアと、一本のアホ毛が揺れている。


 彼女に近づくと、スカートに手を伸ばしかけて、すぐに引っ込めた。また追いかけられるのは面倒だ。


 代わりに声をかける。


「おい、夢乃」


 すると彼女は、ビクッと肩を揺らして勢いよく振り向いた。


「晰根⁉︎ なんでいるの?」

「知るか。しょうがないだろ、気づいたらここにいたんだ」


 また明日、と言っておきながら、夢の中で再会することになるとは。

 周囲を見渡し、状況を理解する夢乃。


「あー、あたしたち、また夢で会ってるんだ〜」

「理想の相手だからな」

「いや、マジで無理だから。冗談でも言うな」


 冷たい声音で言って、心底不快そうに顔を歪める夢乃。そんな反応をされると、こっちもいじってみたくなる。


「今日も縞パンか?」

「知らないわよ。夢の中なんだから」

「気になる」

「嫌よ。なんであんたに教えなくちゃなんないわけ?」

「知りたいから」

「死ね」


 スカートを抑え、軽蔑の眼差しを向けてくる夢乃に対し、棒読みで返す。


「教えてくれないと、普段はちゃんとしたやつ履いてるって話、信じられないなー」

「……この変態が」


 引き気味に言ってため息を着くと、彼女は私の背後を指さした。


「……わかった、確認してあげるからあっち向いてて」

「ありがとう」

「キモいから礼をすんな」


 夢乃に背を向けてしばらく待っていると、後ろから辿々しい声音が聞こえてきた。


「も……、もうこっち向いていいよ。確認、したから……」

「どうだった?」

「も、もちろんレースでフリフリ! そう、すっごく大人なやつよ! 縞パンなわけ、な、ないじゃん!」


 力強い声音と視線とは裏腹に、両手は不安げにスカートに添えられている。


「そっかぁー!」

「やけに嬉しそうね……」

「ああ。夢乃はやっぱ私の理想の女だなぁって」

「……何言ってんの? 意味わかんない」


 そう、拗ねた小声で呟いた夢乃は逃げるように校舎の中へ向かった。


 あの子はやっぱ、縞パンじゃなきゃね。



 ***



 夢は校舎に入ってしばらくすると、また突然に終わった。


 夜闇が蔓延る校内で、明かりを求めてスマホがあるか確認したのだが、私も夢乃も持っていなかった。


 よって夢でやったことと言えば、足元に気をつけながら校内を徘徊しただけである。


 そして翌日。


 朝からいつもとなんら変わりない日常を過ごすと、昼休みを迎えた。


 調査に行く約束があるので、サクッと弁当を済ます。早く二人に逢いたいなっ!


 校舎の西の端まで歩き、活動部屋の前にやってきた。廊下は昼休みだというのに、人気が無く、静まり返っていて変わらず暗い。


 だからこそ、部屋の中から夢乃たちの声がよく聞こえてきた。もう来てんのか。


「待たせたな」

「あ、来た! 早く調査をしよ」


 入ると、すごい反射速度で夢乃が駆け寄ってきた。


「ああ。前生徒会メンバーは知ってるか?」

「いや、知らな〜い」


 恥じることなくアホの子は悠々と首を横に振った。


「それは謎の究明委員会としてどうなんだ?」

「いいじゃんいいじゃん! だって晰根が知ってるんでしょ?」

「まぁな、ならいいか。じゃ、会えるかわからんが、取り敢えず一人ずつ当たってみよう」

「うん、行こう!」


 元気よく頷くと、夢乃は風呂井を手招く。


 風呂井は私に近づいてくるや否や、夢乃の影に隠れた。私とは目も合わせやしない。昨日より明らかに引かれている。おそらく夢乃、私が夢でパンツを確認させたこと話したな。 


 受験生の色玉先輩はもちろん不在なので、部屋の電気を消して廊下に出る。


「去年度の生徒会メンバーは高三に三人残っているだけだ。三階に行くぞ」

「ちょっと待って、そっか、当時高三だった人は卒業してるんだ」


 気づいた夢乃が顔を覗かせてくる。


 南條高校の生徒会選挙は十月にある。現在六月なので、前生徒会の選挙が行われたのは約一年半前。入った時点で高一だった生徒は現在高三。高二だった生徒は今年の春に卒業している。高三は受験期真っ只中なので選挙に出られない。


 そして今から、残っている三人の生徒の内の二人を訪ねるつもりだ。


 尾幌おぼろ先輩を除いた二人。私は全く関わったことがない。


 階段へ向かって歩き出すと、風呂井が隣を歩く夢乃に尋ねた。


「じゃあ、卒業生が犯人だった場合、どうしたらいいでしょうか?」

「大丈夫じゃない? だって卒業生が、わざわざ議事録を取りにくるためだけに母校に潜入するとは思えないし」

「それは同感だな」


 もし行動に移すだけの恨みを抱えていたなら、卒業前にすでに実行しているはずだ。


 階段に差し掛かると、気持ちが高ぶってきたのか夢乃が早足で階段を上った。


 足を明らかにオーバーに動かしている。そして私と風呂井よりも遥かに早く上りきると、夢乃は軽く左右に腰を振ったり、尻を若干突き出したりと、わけわからんことをしだした。


 三階に着くまで、何度も繰り返される。


 ……どう考えても私にパンツ、見せようとしてるな。


 紫色の下着が何度も目に入る。どんなパンツか断定はできないが、少なくとも縞パンではない。どうやら意地でも私に、常に大人パンツを履いてると思われたいようだ。夢乃ちゃん、とっても変態さんなんだね。


 一回家に行かせて欲しいなぁ……持ってる縞パンの枚数を把握したい。


 三階の廊下も、他の階と変わらず騒がしかった。いや、むしろ一番かもしれない。受験のストレスの反動だろうか。あ、おいっ、廊下で鬼ごっこすんな。ぶつかりそうになっただろ。でも女子だから許す。


 一年の風呂井はやけに周りを気にしている。居心地が悪そうだ。


 対して三年の夢乃は、見慣れたいつもの廊下を意気揚々と眺めている。調査ということで、気分が高まっているようだ。


 それでは、早速質問させてもらう。


河口かわぐち先輩から尋ねようと思ってるんだが、どこのクラスかわかるか?」

河口圭奈かわぐちけいなさんのこと?」

「ああ」

「確か〜、C組だと思う。私立理系。ついて来て」


 これは頼もしい。たたっと先頭を切って歩を進める夢乃が振り向く。


「河口さん、生徒会だったんだー」

「去年度の庶務だ」

「へぇ〜」


 どうやら初めて知った様子。まぁ、生徒会メンバーの認知度なんてそんなもんだ。


「しかも彼女は庶務だっただけじゃない。去年度の学校公式ブログの運営も行なっていた」

「学校公式ブログ?」

「やっぱ知らないかぁ……」


 はてなと首を傾げる夢乃に少しだけショックを受ける。


「授業とか、学校行事の様子を紹介するブログがあるんだよ。学校のホームページで見れる」

「なるほど……、そっか、なら去年度の出来事について色々知ってそうだね!」

「そういうことだ」


 たとえ河口先輩が犯人でなかったとしても、有益な情報は持っているはず。

 至極どうでもよさそうに、夢乃は横目を向けてくる。


「ちなみにあんたは書いてんの? そのブログ」


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